半導体製造を支える超純水とは | 水1滴の重み!半導体製造の舞台裏に迫る。

半導体製造工程の約30%を占める洗浄工程では、不純物を極限まで除去した「超純水」(UPW:Ultra Pure Water)が使用されています。

超純水とは、自然界の水から不純物を極限まで取り除き、純度を高めた水のことです。水道水には、カルシウムやマグネシウムなどのミネラル成分や、塩素などの消毒剤など、様々な物質が溶け込んでいます。これらの不純物は、半導体製造のような精密な工程においては、製品の品質を大きく損なう可能性があります。

そこで、半導体製造をはじめとする高純度が要求される分野では、有機物、微粒子、溶存ガスなどを徹底的に除去し、イオンを水素イオン(H+)と水酸化物イオン(OH-)に近づけた超純水が使用されます。

この記事では、半導体の製造工程で不可欠な水である「超純水」の基本的な知識を解説します。

普通の水ではだめ?半導体に「超純水」が必要な理由

半導体の製造は、非常に高度な技術を要する複雑な工程の繰り返しです。この製造工程において、超純水は欠かせない存在です。

半導体製造では、シリコンウェハーと呼ばれる薄い板の上に、複雑な回路パターンを形成していきます。この工程の中で、ウェハーを削ったり、不純物を注入したりするなど、様々な処理が行われます。これらの処理の後には、必ずと言っていいほど洗浄工程が設けられています。

この洗浄工程で用いられるのが、超純水です。超純水とは、不純物を極限まで取り除いた、非常に純度の高い水のことです。なぜ超純水がこれほどまでに重要なのかというと、半導体の回路は非常に微細であり、わずかな不純物でも製品の性能に大きな影響を与えてしまうからです。

【超純水が使用される主な工程】
  • エッチング工程後: ウェハーを削る工程の後、残った不純物や削りカスを洗い流します。
  • イオン注入工程後: シリコンウェハーに特定の元素を打ち込む工程の後、余分なイオンを洗い流します。
  • 研磨工程: ウェハーの表面を平滑にする工程の後、研磨カスを洗い流します。
  • 切断工程: ウェハーを切断した後、切断面に残った微粒子を洗い流します。

超純水が半導体製造に不可欠な理由は、その高い純度にあります。半導体の微細化が進み、回路がますます小さくなるにつれて、微量の不純物でも製品の性能に大きな影響を与えてしまうからです。

水の不純物があると、どのような問題があるのか。以下に整理しました。

  • 回路のショート:不純物が半導体基板に残留すると、回路がショートし、製品が機能しなくなる可能性があります。
  • 性能低下:不純物は、トランジスタの特性を変化させ、製品の性能を低下させる原因となります。
  • 歩留まりの低下:不純物による不良品発生率が増加し、製品の歩留まりが低下します。

超純水の純度

超純水の純度は非常に高く、水道水と比較するとその差は歴然です。調べてみると、興味深い例えが紹介されていましたので、ご紹介します。

50メートルのプールに含まれる不純物の量を例にとると、

  • 水道水:ドラム缶2本~数本分
  • 純水:コップ1杯分
  • 超純水:耳かき1さじ分

というように、超純水の極めて高い純度が例えられています。とてもイメージしやすいですね。

超純水のつくりかた

超純水を作り出すためには、水に含まれる以下の4種類の不純物を効率的に除去することが重要です。

  • 無機物:カルシウムイオン、マグネシウムイオン(硬度成分)、塩素イオン、重金属イオンなど、自然界に存在する鉱物由来の物質や、人為的に水中に混入した物質などが含まれます。
  • 有機物:植物由来のリグニンやフミン酸、生物由来のタンパク質や核酸、そして農薬や合成洗剤などの人工的な有機化合物まで、その種類は多岐にわたります。
  • 微粒子:土壌から溶け出した微粒子や、水道管の腐食によって生じた鉄さびなど、目に見えない小さな粒子が含まれます。
  • 微生物:バクテリア、ウイルス、藻類など、水中に生息する様々な微生物が挙げられます。

これらの不純物は、それぞれ異なる性質を持っており、除去するためには最適な処理方法を選択する必要があります。現在の純水装置や超純水装置は、これらの不純物に対して、高度な分離技術を組み合わせることで、高純度の水を作り出しています。

「水どころ」の熊本県が半導体工場に選ばれた

台湾の半導体大手TSMCが、新たな生産拠点を熊本県に建設することが決まりました。この決定は、日本の半導体産業にとって大きなニュースとなる一方、熊本県にとっても新たな発展の機会をもたらすものと期待されています。

TSMCが熊本を選んだ理由として、まず挙げられるのが、半導体製造に欠かせない「水」が豊富であることです。近年、台湾では深刻な水不足が問題となっており、TSMCの生産活動にも大きな影響が出ていました。安定的な水供給が難しい状況下で、水資源が豊富な熊本県は、TSMCにとってまさに理想的な立地だったと言えるでしょう。

熊本県は、古くから「水どころ」として知られており、生活用水の多くを地下水に依存しています。特に、熊本地域は地下水資源が豊富で、安定的な水供給が可能です。この豊富な水資源は、半導体製造に必要な超純水の安定供給を可能にし、TSMCの生産活動を支える重要な要素となります。

もちろん、熊本県が選ばれた理由としては、水資源だけでなく、関連企業の集積や交通アクセスなども挙げられます。しかし、水不足に悩まされる台湾にとって、安定的な水供給が可能な熊本は、まさに「水のオアシス」のような存在だったと言えるでしょう。

TSMCの熊本進出は、日本の半導体産業の活性化だけでなく、地域の経済発展にも大きく貢献することが期待されています。また、この進出を機に、熊本県は「水の都」としての新たな魅力を発揮し、国内外から注目を集めることになるでしょう。

まとめ

半導体製造は、超純水なしには成り立ちません。超純水は、半導体製造工程の各段階で、ウェハーの洗浄や不純物の除去に用いられ、製品の品質を確保する上で重要な役割を果たしています。特に、半導体の微細化が進むにつれて、超純水の重要性はますます高まっています。超純水は、これらの不純物を極限まで除去することで、高品質な半導体製品の製造を可能にし、私たちの生活を支えるIT社会の発展に貢献しています。

【参考資料】

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この記事を書いた人

株式会社菅製作所

北海道北斗市で、スパッタ装置やALD装置等の成膜装置や光放出電子顕微鏡などの真空装置、放電プラズマ焼結(SPS)による材料合成装置、漁船向け船舶用機器を製造・販売しています。
また、汎用マイコン・汎用メモリへの書込みサービスも行っています。

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