ターボ分子ポンプとは?特徴・原理・メリット・デメリットまで徹底解説。

ターボ分子ポンプとは?特徴・原理・メリット・デメリットまで徹底解説。

あなたの身の回りにあるスマートフォンやパソコン。これらの高性能な半導体チップを作るためには、想像を超える高い真空度が必要なのです。その実現を支えているのが、「ターボ分子ポンプ」という装置です。この記事では、ターボ分子ポンプの仕組みからメリット・デメリット、そして私たちの生活への貢献まで、わかりやすく解説していきます。

ターボ分子ポンプの特徴

ターボ分子ポンプは、高速回転する動翼と静止した固定翼によって構成される真空ポンプの一種です。動翼は、1秒間に数万回という驚異的な速度で回転し、気体分子を弾き飛ばすことで真空を引き起こします。

しかし、この高速回転は、大気圧下では動翼に大きな負荷をかけ、破損の原因となります。そのため、ターボ分子ポンプは、あらかじめある程度の真空状態が作られた環境で使用する必要があり、ドライポンプやロータリーポンプなどの補助ポンプと組み合わせて使用されます。

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メリット

ターボ分子ポンプは、半導体製造プロセスにおいて、その真価を発揮します。 高速回転する翼が、シリコンウェハー上に微細な回路パターンを形成する際に発生するガスを迅速に排気することで、高品質な半導体デバイスの製造を可能にします。また、科学研究分野においても、物質の分析や合成に欠かせない高真空環境を提供し、新たな発見を後押ししています。

ターボ分子ポンプのデメリット

ターボ分子ポンプは、高い真空度を実現できる優れたポンプですが、いくつかの課題も抱えています。

  • 高価格:精密な機械加工が必要なため、他の真空ポンプに比べて高価であることが多いです。
  • 故障リスク:高速回転する部品が多いため、振動や異物混入などにより故障するリスクがあります。特に、ベアリング部分の摩耗や破損は、ポンプの寿命を大きく左右します。
  • 軽ガスに対する排気速度の低下:ヘリウムや水素などの軽い気体分子は、高速で運動しているため、動翼に衝突しても容易に跳ね返されてしまい、排気速度が低下する傾向があります。

しかし、これらのデメリットを補って余りあるほどのメリットがあるため、半導体製造や分析装置など、高真空が必要な分野では広く利用されています。多くのメーカーが、より安価で信頼性の高い材料や構造の開発に取り組んでいます。また、軽ガスに対する排気性能を向上させるための新たな設計も進められています。

ターボ分子ポンプの動作原理

ターボ分子ポンプは、高速回転する動翼と静止した固定翼(静翼)が交互に配置された多段構造を持ちます。動翼は、斜めに傾けられており、その傾きと回転方向によって気体分子を特定の方向に導くことが可能です。

①気体分子の流れ

  • 吸入:高真空側からポンプ内に流入した気体分子は、高速回転する動翼に衝突します。
  • 運動量伝達:動翼は気体分子に運動量を伝達し、分子を後段方向へ押し出します。同時に、動翼の傾きによって、分子は静翼を通過しやすい方向へと導かれます。
  • 多段圧縮:後段の静翼を通過した分子は、再び次の動翼に衝突し、さらに後段へと押し出されます。この過程を複数回繰り返すことで、気体分子は段階的に圧縮され、排気口へと導かれます。
  • 排気:最終段の動翼と静翼を通過した気体分子は、ポンプ外部へ排気されます。

②動翼と静翼の役割

  • 動翼:高速回転することで気体分子に運動量を与え、分子を後段へ押し出す。また、その傾きによって分子の進行方向を制御する。
  • 静翼:動翼によって運動量を得た気体分子を、次の動翼へと導く。

③各段の役割

  • 前段:気体分子を効率よく捕獲し、後段へ送り込む。動翼の傾きは、分子が通過しやすい角度に設計されている。
  • 後段:前段で捕獲された分子をさらに圧縮し、排気口へ導く。動翼の傾きは、分子が逆流しにくい角度に設計されている。

④分子流域での動作

ターボ分子ポンプは、気体分子が平均自由行程よりも小さな環境(分子流域)で最も効率的に動作します。この条件下では、気体分子は他の分子と衝突することなく、動翼と静翼によって直接的に制御されるため、高真空を得ることができます。

ターボ分子ポンプの用途

半導体チップ、液晶パネル、太陽電池といった高性能な製品を作るためには、極めて高い真空度が必要となります。

そんな中でターボ分子ポンプは、高い真空度と大流量という特徴を両立しており、幅広い分野で活躍しています。特に半導体製造や分析装置など、高純度の環境が必要な分野では、その優れた性能が評価されています。ターボ分子ポンプの進化は、より高性能で低コストな製品の開発を加速させ、産業の発展に大きく貢献しています。

ターボ分子ポンプの歴史

ターボ分子ポンプの歴史を一言で言い表すなら、「高真空技術の進化を牽引し、現代産業を支える不可欠な装置へと発展してきた物語」と言えるでしょう。

①分子ポンプの黎明期と停滞

1912年、Gaedeは世界初の分子ポンプを発明し、真空技術に新たな可能性を開きました。しかし、当時の技術では故障が多く、水銀拡散ポンプにその座を譲ることとなりました。その後、HolweckやSiegbahnらが改良を加えましたが、大容量の油拡散ポンプが登場したことで、分子ポンプは再び注目されなくなりました。

ポイント
分子ポンプの概念が生まれ、その可能性が示されたものの、技術的な課題が多く、実用化には至りませんでした。

②ターボ分子ポンプの誕生と半導体産業への貢献

1958年、Beckerは多数のタービン翼を持つ高性能な分子ポンプ「ターボ分子ポンプ」を発表し、真空技術に新たな革新をもたらしました。同時に、Hablanianは自動車のスーパーチャージャーが真空ポンプとして利用できることを示し、ターボ分子ポンプの潜在的な可能性を世界に示しました。

1970年代以降、ターボ分子ポンプは、半導体産業の急速な発展とともに注目を集めるようになりました。油フリーで高真空を実現できるという特徴が、半導体製造プロセスに求められる高純度な環境に合致し、ターボ分子ポンプは不可欠な装置として広く普及しました。

ポイント
高速回転するタービン翼を用いた革新的な構造により、高真空を実現し、従来のポンプの課題を克服しました。

③ターボ分子ポンプのさらなる発展と今後の展望

ターボ分子ポンプは、半導体産業にとどまらず、分析装置、スパッタリング装置など、様々な分野で利用されるようになりました。近年では、材料科学やナノテクノロジーの発展に伴い、より高性能な真空ポンプが求められており、ターボ分子ポンプの開発競争はますます激化しています。

ポイント
半導体産業の発展に伴い、高純度な環境が求められ、ターボ分子ポンプは不可欠な装置として広く普及しました

まとめ

ターボ分子ポンプは、私たちの生活を支える多くの製品の製造に不可欠な装置です。その高速回転による高い排気能力は、現代の高度な技術を支える基盤となっています。この記事では、ターボ分子ポンプの仕組みや役割について解説してきましたが、真空技術は日々進化しており、今後も新たな展開が期待されます。

【参考】
ULVAC アルバック機工株式会社『ターボ分子ポンプ』
ASAHI 株式会社旭精機『ターボ分子ポンプのメリットとデメリット』
株式会社 大阪真空機器製作所『ターボ分子ポンプ』
Leybold『ターボ分子ポンプはどのように機能しますか?』

『ターボ分子の歴史と展望』(澤田 雅/第44回真空に関する連合講演会プロシーディングス)

 

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この記事を書いた人

株式会社菅製作所

北海道北斗市で、スパッタ装置やALD装置等の成膜装置や光放出電子顕微鏡などの真空装置、放電プラズマ焼結(SPS)による材料合成装置、漁船向け船舶用機器を製造・販売しています。
また、汎用マイコン・汎用メモリへの書込みサービスも行っています。

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