真空とは? | 実は「何もない」状態じゃないって知ってましたか?定義・種類・作り方を徹底解説。

「真空」と聞くと、「何もない空間」ってイメージする人が多いと思います。しかし実は真空って、完全に何もない状態ではありません。ちょっと不思議ですよね。

日本工業規格(JIS)では、真空を「大気圧より低い圧力の気体で満たされた空間」と定義しています。つまり、真空とは、空気が全部なくなった状態ではなく、「空気が少ない状態」を意味します。

「真空」という言葉は、もともと「空気がない」という意味で使われていました。しかし、科学が進んだ結果、「完全に空気をなくすこと」が難しいことが分かり、科学の世界では、「空気が少ない状態」も「真空」と呼ぶようになったのです。

「真空」と呼ぶためには、特別な機械を使って空気を抜き取る必要があります。この作業を真空技術と呼びます。真空技術を使って作った、空気が少ない状態を「真空」と呼ぶことにしているわけですね。

この記事では、聞きなれてはいるけれど実は知られてない「真空」の世界に迫りつつ、そんな真空がどんな場面で活かされているのかについて解説します。

スマートフォンと真空。

一見するとまったく縁のなさそうな組み合わせですが、実はすご~く関係しています。真空がなければ、スマートフォンは存在できないのです。「なぜ?」と気になった方は、ぜひ記事をご覧くださいね。

真空の種類と用途:圧力に応じて「低真空」から「極高真空」まで5段階に分類されている

JIS(日本工業規格)では、真空を以下の5つに分類しています。真空の種類によって、必要な真空ポンプや真空計の種類が異なります。例えば、低真空を作るには、比較的簡単な構造の真空ポンプで十分ですが、超高真空を作るためには、非常に高性能な真空ポンプが必要になります。

①低真空

真空チャック、樹脂の真空成形物体を吸着させたり、加工物に空気が入らないようにしたりするなど、大気圧との差を利用した作業に利用されます。

②中真空

薄膜を作るための装置(CVD装置、スパッタリング装置など)で利用されます。真空にすることで、より高品質な薄膜を作ることができます。

③高真空

中真空と同様に、薄膜を作る装置だけでなく、食品の乾燥(フリーズドライ)にも利用されます。

④超高真空

素粒子実験や、非常にきれいな表面を持つ物質を作り出すための装置などに利用されます。宇宙空間のような非常にきれいな環境を作り出すことができます。

⑤極高真空

実用化が難しいと言われていた技術ですが、今日においては素粒子の実験、表面科学に利用されています。

半導体と真空の深い関係:なぜ半導体製造には真空が必要?

皆さんが使っているスマートフォンやパソコンの心臓部である半導体。その製造過程で、真空という特別な環境が欠かせないことをご存知でしょうか?

実は半導体製造装置の多くは、真空環境の中で動作します。特に、プラズマを利用した装置では、真空環境が必須です。真空ポンプで空気を抜き出した状態の箱を真空チャンバーと呼びます。

半導体製造で真空が必要な理由は大きく分けて3つあります。

①不純物を減らす

半導体は非常に小さな部品で、少しでも不純物が混ざると性能が大きく変わってしまいます。真空状態では、空気中のほこりやガスなどの不純物が少ないため、より純度の高い半導体を作ることができます。

②低い温度で処理できる

真空状態では、物質の沸点が下がります。つまり、低い温度で物質を蒸発させることができるということです。これにより、半導体にダメージを与えることなく、精密な加工を行うことができます。

③プラズマを効率的に発生させる

半導体製造では、プラズマという特殊な状態を利用することがあります。プラズマは、真空状態の中でより効率的に生成できます。なぜなら、真空状態では気体分子が少なく、衝突する回数も少ないため、プラズマを安定して維持できるからです。そして真空状態では、プラズマをより安定的に、そして少ないエネルギーで発生させることができるのです。

真空の作り方

真空状態を作るためには、真空ポンプと呼ばれる装置を使って、空気を抜き出す必要があります。しかし、真空ポンプといっても、その種類は様々で、求められる真空度によって最適なポンプが異なります。真空度によって、以下の5つの領域に分けられ、それぞれに適したポンプがあります。

低真空日常生活でよく使われる真空パックなどに使われます。油回転ポンプやドライポンプなど、比較的シンプルな構造のポンプで十分です。
中真空薄膜の製造など、より高い真空度が求められる場合に使われます。油回転ポンプやエッジクポンプなどが使用されます。
高真空半導体製造など、非常に高い真空度が求められる場合に使われます。ターボ分子ポンプや油拡散ポンプなどが使用されます。これらのポンプは、気体分子を直接捕獲したり、はじき飛ばしたりすることで、高真空を実現します。
超高真空素粒子実験など、極めて高い真空度が求められる場合に使われます。スパッターイオンポンプやチタンゲッターポンプなどが使用されます。これらのポンプは、真空容器内のガス分子をイオン化したり、金属に吸着させたりすることで、超高真空を実現します。
極高真空スパッターイオンポンプ、チタンゲッターポンプを使用。

まとめ

今回は「真空」の知られざる世界について紹介しました。

物質の性質を理解することは、パズルを解くようなものです。一つ一つのピースがどのように組み合わさっているか、そしてそれらがどんな性質を持っているのかを理解することで、新しいものを作ったり、既存のものをより良くしたりすることができるのです。

物質の性質を深く探求することは、未来の技術革新につながる、とても面白い冒険だといえるでしょう。

【参考資料】

 

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この記事を書いた人

株式会社菅製作所

北海道北斗市で、スパッタ装置やALD装置等の成膜装置や光放出電子顕微鏡などの真空装置、放電プラズマ焼結(SPS)による材料合成装置、漁船向け船舶用機器を製造・販売しています。
また、汎用マイコン・汎用メモリへの書込みサービスも行っています。

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