あなたのポケットに入っているスマートフォン。その中には、想像を絶するほど小さな世界が広がっています。
その小さな世界を支えているのが、「半導体」という部品です。半導体は、電気を流したり止めたりすることで、計算したり、情報を記憶したりする働きをしています。
半導体技術は目覚ましい進歩を遂げてきましたが、その原動力のひとつが、半導体デバイスの微細化です。わかりやすくいうと、半導体は時代とともにどんどん小さくなっているということです。
この記事では、半導体の微細化がもたらすメリットと課題、歴史的背景について解説します。
目次
半導体を微細化するメリット
どうして半導体を微細化する必要があるのでしょうか。以下に主な2つの理由を整理しました。
①多くの部品を詰め込めるから
半導体の微細化は、デジタル半導体の性能向上に不可欠です。微細化により、同じ面積により多くのMOSFETを搭載できるため、デバイスの処理能力が向上し、複雑な計算やデータ処理がより効率的に行えるようになります。
例えば、iPhoneに搭載されているCPUには、数十億個もの小さな部品が入っています。これらの部品が、皆さんがスマホでゲームをしたり、動画を見たりするのを支えているのです。
②動作が速くなるから
部品を小さくすることで、電気信号が移動する距離が短くなります。マラソン選手が短い距離を走る方が速くゴールできるのと同じように、電気信号も短い距離を移動する方が早く目的地にたどり着けるのです。
微細化の問題:小さくなり続けることで迎える物理的限界
半導体デバイスの微細化は、近年急速に進展し、電子機器の高性能化に大きく貢献してきました。しかし、微細化が進むにつれて、新たな課題も浮上しています。
1. 配線抵抗の増大
微細化によりトランジスタのサイズが縮小されるとともに、配線幅も狭くなります。これにより、配線の電気抵抗が上昇し、電流の流れが阻害されるという問題が生じます。結果として、消費電力が増加し、発熱の原因となるだけでなく、信号遅延が生じる可能性も高まります。
2. 漏れ電流の増加
微細化が進むと、トランジスタの構造がますます微細になり、絶縁層が薄くなります。これにより、トランジスタがオフの状態でも微弱な電流が漏れてしまう「漏れ電流」が発生しやすくなります。漏れ電流は、消費電力の増加だけでなく、回路の安定性を損なう原因となります。
半導体の微細化とムーアの法則
これまでみてきたように、半導体技術の進歩は、その製造プロセスにおける微細化という概念と深く結びついています。微細化を繰り返すと、物理的な限界に直面するといわれていますが、確かなことは言えません。
ただひとつ言えるのは、この微細化の進展は、すでに半世紀以上前から予測されていたということです。それは、インテル社の共同創業者であるゴードン・ムーア氏が1965年に提唱した「ムーアの法則」です。
ムーアの法則は、「半導体チップ上のトランジスタ数は18ヶ月から2年ごとに倍になる」という経験則であり、半導体業界の技術革新の羅針盤として長らく機能してきました。
ムーア氏は、カリフォルニア工科大学で物理学の博士号を取得し、半導体研究の最前線で活躍。インテルを共同創業した後も、半導体技術の革新に尽力し続けました。
ムーアの法則は半導体産業の発展を牽引してきましたが、物理的な限界や経済的な制約から、その終焉が何度も予言されてきました。
しかし、極端紫外線(EUV)リソグラフィ技術の登場など、新たな技術革新によって、微細化はこれまで以上に進展し、ムーアの法則は延命されてきました。
この先、半導体の微細化がどうなっていくのかは、将来の楽しみとして見届けていきたいものですね。
まとめ
半導体デバイスの微細化は、今後も技術革新の原動力であり続けるでしょう。
しかし、物理的な限界や経済的な制約など、様々な課題も存在します。これらの課題を克服し、さらなる高性能化を実現するためには、材料科学、デバイス構造、回路設計など、多岐にわたる分野の研究開発が求められます。
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