貴ガスとは?性質と用途をわかりやすく解説【基礎知識】

夜の街を彩るネオンサイン。この美しい光を放つのは、ネオンという「貴ガス」です。他にも、半導体やロケットなど、私たちの生活を支える様々な分野で、貴ガスと呼ばれるガスが使われています。

貴ガスは、他の元素と反応しにくいという特別な性質を持っていて、様々な分野で活躍しています。

ちなみに「貴ガス」はかつて「希ガス」または「レアガス」と呼ばれていました。これは2005年まで英語で「rare gas」と呼ばれていたことに由来します。しかし表記が「noble gas」へと変更されたことに伴い、日本語での表記も「貴ガス」とされることが増えました。

この記事では、そんな貴ガスの基本的なことを解説するとともに、貴ガスそれぞれの性質と用途をご紹介します。

貴ガスの特徴

貴ガスとは、周期表の18族に属する元素の総称で、ヘリウム、ネオン、アルゴン、クリプトン、キセノン、ラドンの6種類があります。これらの元素は、非常に安定した電子配置をしているため、他の元素と反応しにくく、単原子分子として存在しています。

【貴ガスの主な特徴】

  • 安定性:原子核の周りを回る電子が、非常に安定した配置を取っているため、他の原子と結びつきにくいという特徴があります。そのため、化合物を作ることがほとんどなく、「不活性ガス」とも呼ばれます。
  • 単原子分子:貴ガスは、通常、単独の原子で存在しています。つまり、2つ以上の原子が結びついて分子を作ることがほとんどないのです。
  • 無色無臭:無色透明で、においもありません。
  • 低い沸点・融点:非常に低い温度で液体や固体になります。
  • 存在量:自然界では、他の元素に比べて存在量が非常に少ないです。

貴ガスの用途

貴ガスは、その安定性と特異な性質から、半導体製造において多岐にわたる役割を果たしています。他の物質と反応しにくいため、半導体製造プロセスにおいて、材料の純度を保ち、製品の品質向上に貢献します。エキシマレーザー、保護ガス、キャリアガス、冷却剤など、半導体の製造プロセスにおいて、貴ガスはなくてはならない存在と言えるでしょう。

【半導体製造における貴ガスの主な用途】

  • エキシマレーザー:半導体チップのパターン形成に欠かせないエキシマレーザーは、ネオン、アルゴン、クリプトンなどの貴ガスをレーザー媒質として利用しています。これらの貴ガスは、高出力で短波長のレーザー光を生成し、微細な回路パターンを正確に描くことを可能にします。
  • 保護ガス:半導体製造の様々な工程で、酸化や窒化を防ぐために貴ガスが使用されます。特に、アルゴンは、高温高圧下でのプロセスにおいて、他の物質との反応を防ぎ、高純度の材料を得るために不可欠です。
  • キャリアガス:化学反応において、反応物を均一に混合したり、不純物を除去したりするために、貴ガスがキャリアガスとして利用されます。貴ガスの安定な性質は、反応に影響を与えることなく、目的の反応を促進します。
  • 冷却剤:ヘリウムは、その低い沸点と高い熱伝導率から、超伝導磁石の冷却剤として利用されます。超伝導磁石は、半導体製造装置の重要な部品であり、ヘリウムによる冷却は、装置の高性能化に貢献しています。

貴ガスの種類と性質

ヘリウム(He)

空気よりもずっと軽いヘリウムガスは、風船を浮かばせるのによく使われますね。でも、実はヘリウムは、私たちの生活を支える様々な分野で活躍している、とても重要なガスなんです。

  • ロケット:ロケットの燃料を冷却したり、軽量化するために使われています。
  • 半導体:高純度の半導体を作るために、不純物を除去する役割を担っています。
  • 深海潜水:深海での潜水病を防ぐために、呼吸ガスとして使われます。

ヘリウムは、他の元素とほとんど反応しないため、非常に安定した性質を持っています。また、液体ヘリウムは、宇宙で最も低い温度を持つ物質としても知られています。

ネオン(Ne)

ネオンは、安定した性質に加えて、美しい光を放つという特徴を持っています。ネオンといえば、真っ先に思い浮かぶのは、夜の街を彩るネオンサインです。ネオンガスに電気を流すと、美しい赤みがかったオレンジ色の光を出します。

  • ネオンサイン:ネオンサインだけでなく、液晶テレビのバックライトなど、私たちの身の回りには、ネオンが使われた製品がたくさんあります。
  • レーザー:エキシマレーザーという特殊なレーザーには、ネオンが使われています。このレーザーは、半導体の製造など、非常に精密な作業に使われています。

アルゴン(Ar)

空気中に最も多く含まれている貴ガスであるアルゴンは、安定性だけでなく、熱伝導率が低いという特徴も持っています。

  • 電球:電球の中にアルゴンを入れることで、フィラメントが酸化しにくくなり、電球の寿命が延びます。
  • 溶接:金属を溶接する際に、アルゴンを吹き付けることで、溶けた金属が空気中の酸素に触れるのを防ぎ、美しい仕上がりが得られます。
  • 断熱材:窓ガラスの間にアルゴンを封入することで、断熱効果を高めることができます。

クリプトン(Kr)とキセノン(Xe)

クリプトンとキセノンは、空気中に含まれる量が非常に少ない貴ガスですで、特殊な用途に利用されることが多いです。たとえばキセノンは、ロケットの推進剤としても利用されています。

  • クリプトン:白熱電球やフラッシュに使われています。クリプトンは、アルゴンよりも原子量が大きいため、電球の中に封入すると、光の効率が向上します。
  • キセノン:キセノンランプは、非常に明るい光を出すため、写真撮影や映画撮影に使われています。

まとめ

今回は、貴ガスについて詳しく解説しました。貴ガスは、その安定した性質から、他の元素とは異なる特徴を持っており、その特徴を生かして、私たちの生活をより豊かにする様々な製品に使われています。この記事を通して、貴ガスについて少しでも理解を深めていただけたら幸いです。

【参考】

化学のグルメ『希ガスの電子配置が安定な理由』

ATOMICA原子力百科事典

NIHON POLYMER『半導体製造で利用される貴ガス(希ガス)とは?ウクライナ情勢の影響など解説』

教育出版「希ガス」と「貴ガス」について

 

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この記事を書いた人

株式会社菅製作所

北海道北斗市で、スパッタ装置やALD装置等の成膜装置や光放出電子顕微鏡などの真空装置、放電プラズマ焼結(SPS)による材料合成装置、漁船向け船舶用機器を製造・販売しています。
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