その昔、パソコンの容量はほんのわずかで、映画を1本保存するのも大変でした。
それが今では、スマートフォン一つに何千本もの映画を保存できるようになりました。これは、半導体という小さなチップの中に、膨大な情報を詰め込めるようになったからです。
インテルの共同創業者であるゴードン・ムーア氏は、1965年に「半導体チップ上のトランジスタ数は約18ヶ月で2倍になる」というムーアの法則を提唱しました。つまり、半導体の性能が18ヶ月で2倍になると予測したのです。
どうしてこんなに多くの情報を小さなチップに詰め込めるのでしょうか?
その秘密は、半導体チップの中に作られた回路の細かさにあります。
この回路は、ナノメートルという、髪の毛の太さの10万分の1以下の単位で作り込まれています。いわゆるナノテクノロジーです。
ナノテクノロジーが進展すると、当然、開発技術が大いに発展します。私たちの暮らしに非常に直結する分野ともいえるでしょう。
……しかし近年、ムーアの法則のペースが鈍化しつつあります。トランジスタをさらに小さくする技術的な限界や、製造コストの増大などがその要因として挙げられます。
しかし、ムーアの法則が終焉を迎えたわけではありません。新たな材料や構造、製造プロセスなどの研究開発が進められ、半導体の性能向上は続いています。
そのカギを握るのが、今回のテーマである「ナノメートル」なのです。
では果たして、ナノメートルとは、どこまで小さな世界なのでしょうか?
ナノメートル(nm)とは
ナノメートル(nm)は、花粉(約40μm)の4万分の1程度の非常に小さな単位です。
そう、ナノメートルは花粉と同じくらい小さい単位なのです。そんな小さなものを人工的に作り出せるのですから、かえって想像しにくいですよね。すごいとしか言いようがありません。
日常の物に例えるならば、砂(約1mm)の100万分の1、髪の毛1本の太さ(約100μm)の10万分の1に相当する大きさです。
他のたとえでいうと、地球を1メートルの直径としたとき、1円玉の大きさが1ナノメートルになります。
ナノレベルに達した半導体産業
現在の半導体プロセス技術は、1~2ナノメートルのノードまで微細化が進み、物理的な限界に近づいています。
この状況下において、半導体業界は、従来の微細化による性能向上だけでなく、多様なアプローチで性能限界を突破しようと試みています。
10ナノメートル以下の極微細化は、単にトランジスタのサイズを縮小するだけでなく、新たな課題をもたらします。
トンネル効果やリーク電流といった量子効果の影響が顕著になり、従来の設計ルールやプロセスフローの見直しを迫られています。
しかし、微細化がもたらすメリットは計り知れません。トランジスタの小型化は、チップ全体の集積度向上に直結し、高性能化、低消費電力化、そしてコスト削減を実現します。
- チップサイズは小さくなる
- 消費電力が減少する
- 処理速度は速くなる
また、微細化は、より高度な3次元積層構造や異種混載といった先進的なパッケージング技術の発展を促し、システム全体の性能向上に貢献します。
さらに、微細化は、AIやIoTなど、新たなテクノロジーの進展を支える基盤となります。例えば、大規模なニューラルネットワークの演算を高速に行うためには、高性能な半導体が不可欠です。
半導体業界は、今後も微細化の限界に挑戦するとともに、新たな材料やデバイス構造の開発、AIを活用した設計など、多岐にわたる技術革新を進めていくでしょう。
まとめ
私たちの生活を支える多くの製品の中には、小さな半導体が隠れています。半導体の中に作られた回路は、ナノメートルという非常に小さな世界で作られています。この小さな世界での技術革新が、私たちの未来を大きく変えていくでしょう。
【参考】
- 『ナノメートルのスケール』未来材料・システム研究所
- 『ナノ(Nano)』サムスン
- 『ナノテクノロジーってなに?』文部科学省