有機半導体とは、簡単に言うと、プラスチックのように柔らかい有機物でできている半導体のことです。
従来の半導体に使われているシリコンなどの無機物とは異なり、炭素を主成分とする有機化合物で作られています。
有機半導体の大きな特徴は、その柔軟性です。
薄く、軽く、曲げることができるため、従来の電子機器では実現できなかったような、折り畳めるスマートフォンや、体に貼り付けられるセンサーなど、新しい形の電子デバイスを作ることができます。
また、インクジェット印刷のように、比較的簡単な方法で製造できるため、コストを抑えて大面積のデバイスを作れる可能性も秘めています。
ただし、有機半導体は、まだ開発途上の段階であり、耐久性や安定性といった課題も残されています。
しかし、そのポテンシャルは非常に高く、今後の研究開発によって、私たちの生活を大きく変えるような新しい製品が生まれることが期待されています。
そこでこの記事では、技術発展のポテンシャルを秘めている有機半導体について解説します。
目次
有機半導体と無機半導体との違い
有機半導体
有機半導体は炭素化合物からなり、柔軟性、軽量性、低温プロセス適性などの特徴を有しています。
有機半導体は、フレキシブルディスプレイや有機EL照明など、新たな電子デバイスへの応用が期待されています。
無機半導体
これに対し、無機半導体はシリコンなどの無機物からなり、高いキャリア移動度や耐熱性、信頼性を特長とします。
無機半導体は、大規模集積回路(LSI)やパワーデバイスなど、高性能・高信頼性が要求される分野で広く利用されています。
有機半導体のメリット
①半導体の製造に幅がでる
【低温製造】
有機半導体は、一般的に200℃以下の低温で加工できます。これにより、プラスチックフィルムやガラス基板など、熱に弱い素材上にデバイスを形成することが可能になります。
【溶液】
有機半導体は、溶液に溶かしてインクジェット印刷やスピンコートなどの方法で薄膜を形成することができます。このため、大面積化やフレキシブルなデバイスへの応用が容易です。
【低コスト化】
高真空やクリーンルームといった特殊な環境を必要とせず、比較的簡単な装置で製造できるため、製造コストを低減できます。
②分子設計の自由度
【カスタマイズ性】
目的とする特性に合わせて、分子の構造を自由に設計することができます。例えば、キャリア移動度を向上させたり、光吸収特性を調整したりといったことが可能です。
【材料選択の自由度】
膨大な数の有機化合物の中から、最適な半導体材料を選択することができます。
③柔軟性
【機械的柔軟性】
有機半導体は、π結合という弱い結合で分子がつながっているため、柔軟性があり、曲げたり伸ばしたりすることができます。
【デバイスの多様性】
柔軟な特性を活かして、折り畳み可能なディスプレイや、身体に貼り付けられるセンサーなど、従来の電子デバイスでは実現できなかったようなデバイスを開発することができます。
④その他
【軽量化】
有機半導体は、一般的に無機半導体よりも密度が低いため、軽量なデバイスを実現できます。
【携帯機器への応用】
軽量化は、特に携帯電話やウェアラブルデバイスなど、持ち運びやすさが求められる製品において大きなメリットとなります。
有機半導体の用途
有機半導体は、その柔軟性、軽量性、そして低温プロセスでの製造が可能といった特徴を活かし、ディスプレイ、ウェアラブルデバイス、IoTなど、幅広い分野で新たな可能性を開いています。
すでに実用化されている例
有機ELディスプレイ | スマートフォンやテレビなど、私たちの身近な製品に多く採用されています。有機ELは、自らが光を放つため、バックライトが不要となり、薄型で高画質なディスプレイを実現します。 |
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フレキシブルディスプレイ | 折り曲げ可能なスマートフォンや、曲面ディスプレイなど、従来の概念を覆すようなデバイスの実現に貢献しています。有機半導体の柔軟性が、これらの革新的な製品を可能にしています。 |
今後の期待される用途
ウェアラブルデバイス | 皮膚に貼り付けられるような、より柔軟で軽量なウェアラブルデバイスの開発が期待されています。 |
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バイオセンサー | 人体の生体情報を測るセンサーへの応用も期待されています。有機半導体の柔軟性と生体適合性は、この分野での新たな可能性を広げます。 |
IoTデバイス | 様々なモノがインターネットにつながるIoT社会において、有機半導体は、低コストでフレキシブルなセンサーやアクチュエーターとして活躍することが期待されます。 |
有機半導体の課題
有機半導体は、その柔軟性や低コストな製造プロセスなど、多くの魅力的な特徴を持っています。しかし、無機半導体と比較して、いくつかの課題も抱えています。
①性能の差
半導体の性能を示す指標の一つに「キャリア移動度」があります。これは、電子や正孔がどれだけスムーズに移動できるかを示す値で、高いほど素子の性能が良いとされます。
無機半導体、特にシリコンは、長年の研究開発により非常に高いキャリア移動度を実現しています。一方、有機半導体は、現時点では無機半導体には遠く及びません。
- 有機半導体は100 cm²/Vs未満
- 無機半導体は370~13,800 cm²/Vs程度
②安定性の差
有機半導体は、光、熱、水、酸素などに弱く、経時的に性能が劣化しやすいという課題があります。
特に、有機分子の中には、光を吸収することで分解したり、空気中の酸素と反応して酸化したりするものがあります。
また、一部の有機化合物には発がん性があるため、安全性の確保も重要な課題です。
まとめ
有機半導体の研究は、電気を通す有機化合物の発見から始まって以来、半世紀以上の歴史を刻んできました。その特徴的な性質を生かし、有機ELディスプレイをはじめとする様々な電子デバイスへの応用が進んでいます。
有機半導体の最大の利点は、その柔軟性と低コストな製造プロセスにあります。溶液プロセスによる大面積化や、フレキシブル基板への成膜が容易であり、従来の無機半導体では実現困難なデバイス構造の構築を可能にします。また、分子の構造を精密に設計することで、材料特性を自在に制御できる点も大きな魅力です。
しかしながら、キャリア移動度や安定性といった点では、無機半導体にはまだ及ばない部分があります。これらの課題克服のため、高性能な有機半導体材料の開発や、デバイス構造の最適化に関する研究が活発に進められています。
今後、有機半導体は、ウェアラブルデバイスやバイオセンサーなど、新たな市場の創出に大きく貢献することが期待されています。また、IoT社会の実現に向けて、低コストでフレキシブルなセンサーやアクチュエーターとしての応用も期待されています。
【参考】
- 『有機半導体と無機半導体の違いとは?分かりやすく解説』Semicon Hub
- 『【総説】有機半導体について』siyaku blog
- 『半導体とは』パイクリスタル
- 『有機半導体とは?注目が集まる理由とその特徴を簡単に解説』マイナビニュース