シリコンウエハーのすべて:特徴・役割・選ばれる理由を解説。

スマートフォンの中に広がる、ミクロの世界を想像してみてください。

そこには、無数のトランジスタや回路がぎっしりと詰まっています。

これらの部品は、「シリコンウエハー」と呼ばれる薄い板の上に作られています。まるで、絵画のキャンバスのように、シリコンウエハーは、半導体回路を描くための土台となるのです。

この小さな板が、私たちの生活を大きく変えたコンピューターやスマートフォンなどの誕生を支えています。

いったい、シリコンウエハーは何からできているのでしょうか?

この記事では、シリコンウエハーの特徴・役割・選ばれる理由・製造工程を一挙解説します。

シリコンウエハーとは

シリコンウエハーは、半導体デバイスの製造において基板として用いられる、高純度の単結晶シリコンから作られた円盤状の基板です。

その表面は原子レベルで平坦化されており、微細な回路パターンを形成するための理想的な基盤となっています。

シリコンとシリコーンの違い

ところで「シリコン」と「シリコーン」は、名前が似ているため混同されがちですが、全く異なる物質です。

「シリコン」は、先ほども説明したとおり、地球上で酸素に次いで2番目に多い元素で、周期表で14番目に位置する元素です。日本語では「ケイ素」とも呼ばれます。シリコンは、半導体に使われるなど、私たちの生活を支える重要な物質です。

他方、「シリコーン」は、シリコンを主成分とする有機化合物の一種です。シリコン原子と酸素原子が交互に結合した骨格を持ち、その両端に有機基が結合しています。シリコーンは、耐熱性、耐寒性、耐薬品性などに優れており、ゴム製品やコーティング剤など、様々な分野で利用されています。

決定的な違いは、元素か化合物であるか、です。

シリコンシリコーン
種類元素化合物
主な用途半導体ゴム製品、コーティング剤、化粧品など
性質硬い、脆い柔軟性がある、耐熱性・耐寒性が高い
構造結晶構造高分子構造

シリコンウエハーの役割

シリコンウエハーは、半導体デバイスの製造における基盤として機能しています。

【回路パターンの形成】

シリコンウエハーの表面に、非常に細かい回路パターンが形成されます。このパターンによって、トランジスタやICなどの半導体素子が作られます。

【半導体デバイスの支持体】

作られた回路パターンを保護し、外部からの衝撃から守ります。

【電気的な接続】

ウエハー上に形成された回路と、外部の回路との電気的な接続を行います。

シリコンウエハーと身近な製品

【スマートフォン】

スマートフォンの中には、無数の小さな半導体回路が組み込まれています。この回路は、シリコンウエハー上に作られています。CPU、メモリ、カメラ、通信モジュールなど、スマートフォンの機能を実現するために、シリコンウエハーは欠かせない存在です。

【パソコン】

スマートフォンと同様に、パソコンにも数多くの半導体が使用されています。

  • CPU:コンピュータの動作を制御する中枢部分
  • メモリ:プログラムやデータを一時的に記憶する
  • グラフィックボード:画像処理を行う
  • ハードディスク:データを保存する

これらの部品は、全てシリコンウエハー上に作られています。

【テレビ】

テレビの画面に表示される映像は、数百万個の小さな画素によって構成されています。各画素には、半導体素子が使用されており、電圧を変化させることで光の三原色である赤、緑、青の輝度を制御し、様々な色を表現しています。

【自動車】

最近の自動車には、多くの電子制御システムが搭載されています。

  • エンジン制御:エンジンの燃焼効率を最適化
  • ブレーキ制御:ABSやブレーキアシストなど
  • カーナビゲーション:地図表示やルート案内
  • 安全装置:衝突回避システムなど

これらのシステムには、様々な種類のシリコンウエハーの半導体が使用されています。

なぜシリコンが選ばれるのか

シリコンは、地球上で酸素に次いで2番目に豊富に存在する元素です。砂や石など、私たちの身近な場所にも多く含まれています。この身近な物質が、現代の電子機器を支える重要な材料となっているのです。

シリコンが半導体材料として注目されるようになったのは、1950年代のベル研究所でのトランジスタの研究がきっかけでした。研究者たちは、シリコンがトランジスタの材料として理想的であると見出し、半導体産業の発展の礎を築きました。

1959年には、複数のトランジスタを一つのチップに集積したIC(集積回路)が発明され、半導体産業は飛躍的な発展を遂げます。このICの登場により、電子機器は小型化・軽量化が進み、私たちの生活は大きく変わりました。

「シリコンバレー」という言葉は、このシリコンを使った半導体産業が盛んに発展した地域に由来しています。シリコンバレーの成功は、シリコンがいかに現代社会に不可欠な物質であるかを示しています。

以下に、半導体のウエハーにシリコンが選ばれる理由を整理しました。

豊富な存在量シリコンは地球の地殻に二番目に多く存在する元素です。そのため、原料の調達が容易で、コストを抑えることができます。
優れた半導体特性シリコンは、電気を通しにくい絶縁体と、電気を通しやすい導体のちょうど中間のような性質を持つ半導体として、非常に優れた特性を持っています。
加工性の高さシリコンは、高温でも安定しており、様々な加工が可能です。特に、酸化膜を作りやすいという特性は、トランジスタなどの製造に非常に重要です。
成熟した製造技術長年の研究開発により、シリコンの製造技術は非常に高度に発展しており、高品質なシリコンウエハーを大量に生産することができます。

シリコンウエハーが丸い理由

シリコンウエハーが丸い形状をしているのは、その製造工程と、単結晶という性質に深く関係しています。

単結晶の成長と円柱形

シリコンウエハーの原料となるシリコンは、非常に純度の高い単結晶として育成されます。

この単結晶を育成する際、一般的に用いられるのが「チョクラルスキー法」と呼ばれる方法です。

この方法では、溶けたシリコンの中に小さな種結晶を浸し、ゆっくりと引き上げながら冷却することで、単結晶を成長させていきます。

このプロセスで成長する結晶は、自然と円柱状になります。これは、種結晶から均一に結晶が成長していくためであり、まるで氷が凍りつく際に中心から外に向かって円状に広がっていく様子に似ています。

ウエハーへの加工

成長した円柱状のシリコン単結晶を「インゴット」と呼びます。このインゴットを薄い円盤状にスライスすることで、シリコンウエハーが作られます。

四角いウエハーを作るのが難しい理由

技術的には、四角いウエハーを作ることも不可能ではありません。

しかし、

  • 単結晶成長の難しさ:四角い形状の単結晶を均一に成長させるのは非常に困難です。
  • 歩留まりの低下:四角いウエハーでは、角の部分に欠陥が生じやすく、歩留まりが低下する可能性があります。
  • 加工の複雑化:四角いウエハーの加工は、円形のウエハーに比べて複雑になり、コストも高くなります。

これらの理由から、現在のところ、シリコンウエハーは円形が主流となっています。

シリコンウエハーの大きさ:なぜ大口径化が進むのか?

時代を経るごとにシリコンウエハーの直径が大きくなる「大口径化」が進んでいます。

じつはシリコンウエハーの大口径化は、半導体製造のコスト削減と生産性の向上に大きく貢献しているのです。

1枚のウエハーから作れるチップの数をイメージしてみてください。ピザを例にするとわかりやすいでしょう。

小さなピザから切り出せるピザの数は限られていますが、大きなピザから切り出せるピザの数の方が多いですよね。シリコンウエハーも同じです。

ウエハーの直径が大きくなれば、1枚のウエハーから切り出せる半導体チップの数も増えます。 つまり、より多くの製品を効率的に製造できるようになるのです。

【大口径化がもたらすメリット】

  • 製造コストの削減:1枚のウエハーから多くのチップを作れるため、1チップあたりの製造コストを大幅に削減できます。
  • 生産性の向上:より多くのチップを短時間で製造できるようになり、生産性が向上します。
  • 高性能化:大口径化に伴い、ウエハーの品質も向上し、より高性能な半導体デバイスの製造が可能になります。

現在、半導体業界では、これらの課題を克服し、より大きな直径のウエハーを用いた製造プロセスが研究されています。

シリコンウエハーの製造過程

半導体ができるまでのプロセスは、主に3工程に区別できます。

  • シリコンウエハーそのものをつくる工程
  • シリコンウエハーの上にチップをつくる工程(通称:前工程)
  • チップをパッケージ化する(通称:後工程)

以下では、シリコンウエハーそのものをつくる工程について解説します。

①高純度シリコンの製造

天然のシリコンには不純物が多いため、化学的なプロセスを経て高純度のシリコンを精製します。

②単結晶育成

高純度のシリコンを溶かし、種結晶と呼ばれる小さなシリコンの結晶を浸してゆっくりと引き上げ、大きな単結晶を育成します。この工程で、Czochralski法(チョクラルスキー法)がよく用いられます。

③インゴット切断

成長した単結晶(インゴット)を、ダイヤモンドワイヤーソーなどで薄くスライスし、ウエハーを作ります。

④研磨

スライスされたウエハーの表面を鏡面のように平滑に研磨します。

⑤洗浄

研磨の際に付着した異物を取り除くために、徹底的に洗浄します。

⑥検査

ウエハーの表面欠陥や厚さの均一性などを検査し、良品を選別します。

⑦シリコンウエハーにチップをつくりパッケージ化する

以降の工程は、

  • シリコンウエハーの上にチップをつくる工程(通称:前工程)
  • チップをパッケージ化する(通称:後工程)

へとシフトしていきます。

まとめ

シリコンウエハーは、私たちの生活を支える基盤となる重要な材料です。この記事では、シリコンウエハーとは何か、なぜシリコンが選ばれるのか、そしてどのように製造されるのかについて解説しました。シリコンウエハーのさらなる発展によって、私たちの生活はますます豊かになるでしょう。

【参考】

シリコンウエハー」(ShinEthu)

シリコンウェハとは?基本をわかりやすく解説」(Semicon Hub)

大口径シリコンウエハ研削加工における幾何と運動』(精密工学会誌)

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この記事を書いた人

株式会社菅製作所

北海道北斗市で、スパッタ装置やALD装置等の成膜装置や光放出電子顕微鏡などの真空装置、放電プラズマ焼結(SPS)による材料合成装置、漁船向け船舶用機器を製造・販売しています。
また、汎用マイコン・汎用メモリへの書込みサービスも行っています。

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