自由電子とは?特徴・役割・金属との関係について解説。

スマートフォンを充電する時、あなたはなぜコンセントにコードを繋げるとすぐに充電が始まるのか考えたことはありますか?

その仕組みを支えているのは、実は目に見えない小さな粒子の働きなのです。それが、自由電子と呼ばれるものです。

自由電子は、原子核に束縛されずに、金属の中を自由に動き回る小さな粒子です。

この自由電子の動きが、電気伝導性といった様々な性質を生み出しています。

今回は、この自由電子がどのように物質の性質に影響を与えているのか、詳しく解説していきます。

自由電子とは何か?特徴について

自由電子とは、原子核に束縛されず、物質の中を自由に動き回ることができる電子のことを指します。

自由電子の主な役割

【電気伝導性】

電圧をかけると、自由電子はマイナス極からプラス極へと移動し、電流を流します。この電子の流れが、私たちの生活を支える電気製品の基盤となっています。

【熱伝導性】

金属に熱を加えると、自由電子がその熱エネルギーを受け取り、他の電子に伝えます。この熱の伝わり方は、まるで水が熱せられたときに、その熱が全体に広がるようなものです。

【金属光沢】

金属に光が当たると、自由電子がその光を吸収し、再び放出します。この現象が、金属の光沢を生み出します。

【塑性変形】

金属に力が加わると、原子核の位置がずれますが、自由電子がその変化に柔軟に対応することで、金属は割れることなく形を変えることができます。

電子と自由電子の違い

電子は原子を構成する基本的な粒子ですが、その中でも原子核に束縛されている電子と、自由に動き回ることができる自由電子に分けられます。

自由電子は、金属の電気伝導や熱伝導、光沢などの性質に深く関わっており、私たちの身の回りの様々な現象を説明する上で重要な役割を果たしています。

電子自由電子
位置原子核の周囲を回っている物質の中を自由に動き回っている
状態原子に束縛されている原子から解放されている
役割原子の性質を決める電流を流す、熱を伝えるなど

自由電子が自由に動き回れる理由

自由電子が金属内部を自由に動き回れる理由は、金属の結晶構造と、電子と原子核の相互作用に深く関係しています。

金属は、規則正しく原子(陽イオン)が配列した結晶構造をしています。このとき、最外殻の電子は、特定の原子核に束縛されずに、金属結晶全体を動き回るようになります。この自由に動き回る電子を、自由電子と呼びます。

自由電子の身近な例

自由電子は、私たちの身の回りの様々なところで活躍しています。目に見えない小さな粒子ですが、私たちの生活を大きく支えているのです。

①電線

電線は、電気を通すために最も身近な存在の一つです。電線の中を流れる電流は、実は金属内の自由電子が移動することで生まれています。電圧をかけると、自由電子がマイナス極からプラス極へと移動し、電流が流れるのです。

②電熱器

電気ストーブや電気ケトルなど、電熱器は電気エネルギーを熱エネルギーに変換する装置です。このとき、電流が流れる導線内で、自由電子が原子核や格子振動と衝突し、その際に発生した熱が周囲に伝わります。

③電子機器

スマートフォン、パソコン、テレビなど、現代の電子機器は、全て半導体という物質を基盤として作られています。半導体は、不純物を加えることで自由電子の数を制御し、様々な機能を実現しています。

④金属光沢

金属が光沢を持つのは、自由電子が光を反射するためです。光が金属に当たると、自由電子がそのエネルギーを吸収し、再び光を放出します。この現象が、金属の光沢を生み出します。

⑤電磁石

コイルに電流を流すと、その周りには磁場が発生します。これは、コイル内の導体中を流れる自由電子が磁場を発生させるためです。

自由電子と金属

自由電子は、特に金属内部では、最外殻の電子が原子核から離れやすく、自由電子として振る舞うことが多くなります。

金属は、規則正しく原子(陽イオン)が配列した結晶構造をしています。このとき、最外殻の電子は、特定の原子核に束縛されずに、金属結晶全体を動き回るようになります。この自由に動き回る電子が、自由電子です。

実はこの自由電子の動きが、金属の「電気伝導性」「熱伝導性」「金属光沢」といった特徴的な性質をもたらします。

①電気伝導性

金属の電気伝導性は、自由電子の存在と深く結びついています。自由電子が自由に動き回ることで、電流が流れやすくなるのです。

電圧が加わると、自由電子はマイナス極からプラス極へと移動し、電流を流します。

【自由電子と電気伝導性の関係】

  • 自由電子の数:自由電子が多いほど、電流を流しやすい。
  • 自由電子の移動度:自由電子が障害物にぶつかることなく自由に動き回れるほど、電気伝導率は高くなる。
  • 温度:温度が上がると、原子振動が激しくなり、自由電子の移動を妨げるため、一般的に電気伝導率は低下する。

【電気伝導の仕組み】

  • 電場の発生:金属に電圧をかけると、電場が発生します。
  • 電子の移動:電場によって、自由電子はマイナス極からプラス極に向かって力を受け、移動を始めます。この電子の流れが電流です。
  • 抵抗:自由電子は、移動中に金属イオンや他の自由電子と衝突します。この衝突が、電子の流れを妨げる抵抗となります。

②熱伝導性

金属が他の物質に比べて高い熱伝導率を持つのは、金属内部を自由に動き回る自由電子の存在が大きく関わっています。

【自由電子による熱伝導の関係】

  • 高速な熱伝導:自由電子は、非常に高速に移動するため、熱は金属内部を素早く伝わる。
  • 電気伝導性との相関:電気伝導性の高い金属は、一般的に熱伝導性も高い。これは、どちらも自由電子の動きに依存しているためです。
  • 温度依存性:温度が上昇すると、原子振動が激しくなり、自由電子の移動を妨げるため、熱伝導率は低下する傾向があります。

【自由電子が熱を伝える仕組み】

  • 熱エネルギーの吸収:金属が熱を受けると、自由電子がその熱エネルギーを吸収します。
  • 自由電子の移動:エネルギーを得た自由電子は、金属内部を高速で動き回り、他の場所へと移動します。
  • エネルギーの伝達:移動した自由電子は、他の電子や原子核にエネルギーを伝達し、結果として熱が伝わるのです。

③金属光沢

金属には、原子核に束縛されずに自由に動き回ることができる自由電子が豊富に存在します。この自由電子が、光の振動に対して敏感に反応し、光を反射します。

【金属光沢を生み出す仕組み】

  • 光の吸収:金属表面に光が当たると、自由電子がその光エネルギーを吸収します。
  • 電子の振動:吸収したエネルギーによって、自由電子は振動を始めます。
  • 光の再放射:振動した自由電子は、再び光を放出します。この放出された光が、私たちが見ている金属光沢となります。

この一連のプロセスは、鏡が光を反射する原理と似ています。ただし、金属の場合、自由電子が光を吸収し、再び放出する過程で、光の波長が変化したり、散乱したりするため、金属の種類によって光沢の色が異なります。

【金属の種類による光沢の違い】

金属の種類によって、自由電子の密度やエネルギー状態が異なるため、反射する光の波長が異なり、様々な色合いの金属光沢が現れます。

  • 銀:可視光線のほとんどを反射するため、銀白色に見えます。
  • 金:赤色から黄色にかけての光を反射するため、金色に見えます。
  • 銅:赤色系の光を反射するため、赤みがかった色に見えます。

自由電子とオームの法則の関係

オームの法則は、自由電子の運動と、金属の結晶構造、そして電場との相互作用によって説明することができます。自由電子は、金属の電気伝導性を理解する上で、非常に重要な概念です。

オームの法則とは、「電圧Vは、電流Iに比例する」という法則です。これを式で表すと、

V = RI

となります。ここで、Rは抵抗です。

このオームの法則は、金属内の自由電子の運動と深く関係しています。

【電圧の働き】

金属に電圧をかけると、電場が生じます。この電場によって、自由電子はマイナス極からプラス極に向かって力を受け、移動を始めます。

【抵抗の発生】

自由電子は、金属内部の原子核や他の自由電子と衝突しながら移動します。この衝突が、電子の流れを妨げる抵抗となります。

【電流の安定化】

電圧が一定の場合、電場による加速と、原子との衝突による減速が釣り合い、一定の速度で電子が移動し、一定の電流が流れます。

自由電子と半導体

自由電子は、半導体の働きを理解する上で非常に重要な概念です。

自由電子は、半導体の中で電流を運ぶ役割を担っています。電圧をかけると、自由電子は電場の方向に移動し、電流が流れます。

自由電子の動きを制御することで、私たちは多様な電子機器を手に入れることができます。

真性半導体と不純物半導体

半導体は、その電気伝導率が導体と絶縁体の中間にある物質として知られています。

半導体には、「真性半導体」と「不純物半導体」の2種が存在します。

真性半導体は純粋な半導体であり、不純物を一切含まないことが特徴です。

しかし、電子機器に利用するためには、この真性半導体に手を加える必要があります。

そこで登場するのが、不純物を意図的に添加した不純物半導体です。

添加する不純物の種類によって、「n型半導体」と「p型半導体」の2種類に大別されます。

n型半導体リン (P)、ヒ素 (As)、アンチモン (Sb) などの5価の元素を添加することで、余分な電子が生じ、電子が多数キャリアとなります。
p型半導体ホウ素 (B)、アルミニウム (Al)、ガリウム (Ga) などの3価の元素を添加することで、電子が不足し、正孔が多数キャリアとなります。

自由電子と不純物半導体の関係

不純物半導体において、自由電子は非常に重要な役割を果たしています。

不純物半導体における自由電子の数は、添加する不純物の種類と量によって大きく変化します。

n型半導体リン (P) やヒ素 (As) などの5価の元素を添加すると、余分な電子が生じ、電子が多数キャリアとなります。この余分な電子が自由電子として動き回り、電流を流します。
p型半導体ホウ素 (B) やアルミニウム (Al) などの3価の元素を添加すると、電子が不足し、正孔と呼ばれる空孔が生じます。この正孔が、あたかも正の電荷を持った粒子のように振る舞い、電流を流します。

まとめ

自由電子は、金属の電気伝導性や熱伝導性といった性質を決定づける重要な要素です。

自由電子は、私たちの身の回りの様々な製品、例えば電気製品や電子機器の動作に不可欠な要素なのです。

【参考】

【簡単解説】金属結合とは?自由電子の役割や金属結晶について」(株式会社 特殊金属エクセル)

熱伝導・電気伝導」(名古屋市科学館)

電流の自由電子モデルについての考察』(物理教育通信 第174号)

このエントリーをはてなブックマークに追加

製品やサービスに関するお問い合せはこちら

お問い合せフォーム

この記事を書いた人

株式会社菅製作所

北海道北斗市で、スパッタ装置やALD装置等の成膜装置や光放出電子顕微鏡などの真空装置、放電プラズマ焼結(SPS)による材料合成装置、漁船向け船舶用機器を製造・販売しています。
また、汎用マイコン・汎用メモリへの書込みサービスも行っています。

お問い合わせはこちら