n型半導体 | 仕組み、特徴、p型との違い、利用例を徹底解説

現代文明を支える電子機器。その基盤となるのが半導体です。その中でも「n型半導体」は、きわめて重要な役割を果たしています。

そこでこの記事では、n型半導体の仕組み、特徴、利用例について深く掘り下げるとともに、今後10年の展望についてもみていきます。

「n型半導体」とは負電荷を持つ自由電子によって電気伝導が起こる半導体

n型半導体(n-type semiconductor)とは、真性半導体(電気を通しにくい物質)に、リン(P)、ヒ素(As)、アンチモン(Sb)などの不純物を微量添加することで作られる半導体です。この不純物によって、半導体内に自由電子と呼ばれる電荷を運ぶキャリアが生成され、電流が流れるようになります。

n型半導体の仕組み

n型半導体の仕組みを理解するには、まず真性半導体の構造と特性を知ることが重要です。真性半導体は、シリコンなどの元素を単結晶にしたもので、すべての原子が4つの価電子で結合しているため、自由な電子の存在がなく、電気を通しにくい性質を持っています。

そこに、リンのようなV族元素を微量添加すると、V族元素の価電子が1つ余剰になります。この余剰な電子が自由電子となり、真性半導体ではなかった電気伝導性を付与します。

n型半導体における電流の流れ

電圧をかけると、n型半導体内の自由電子はプラス極側に引き寄せられます。この自由電子の移動が電流となり、n型半導体が電気を通すことができるのです。

n型半導体の特徴まとめ

  • 自由電子が多数キャリアである
  • 電気伝導度が高い
  • 電子が移動しやすい
  • マイナスの電荷を持つ(negativeの頭文字からn型と呼ばれる)

n型半導体の利用例

  • トランジスタ
  • ダイオード
  • 太陽電池
  • LED
  • パワーデバイス

ドーピングとは意図的に不純物を添加する技術のこと

n型半導体を論ずるうえで、「ドーピング」は不可欠な技術です。ドーピングは、不純物を意図的に半導体材料に添加することで、その性質を制御することを意味します。

半導体製造では、シリコンなどの元素を単結晶化させた真性半導体を使用します。真性半導体は、電気を通しにくい性質を持っています。そこで、ドーピング技術を用いて、シリコン基板上の特定部分にn型半導体やp型半導体を作ることで、電気伝導性を付与します。

シリコン(Si)中にリン(P)がドーピングされた場合。(引用元

p型半導体はn型半導体と違って「自由電子がほとんど存在しない」

p型半導体は、n型半導体とは異なり、自由電子がほとんど存在しない半導体です。代わりに、価電子帯には電子の欠損部である「正孔(ホール)」が存在します。

正孔は、本来電子が存在していた場所が空いた状態のことを指します。電子はマイナスの電荷を持つため、正孔はプラスの電荷を持つと見なされます。

p型半導体における電流の流れ

p型半導体に電圧をかけると、プラス極側に隣り合う電子は正孔に移動し、正孔が移動することになります。見た目上は正孔がマイナス極側に移動しているように見えますが、これは電子が正孔に移動することで生じる現象です。

p型半導体の特徴まとめ

  • 自由電子がほとんど存在しない
  • 正孔が多数キャリアである
  • 電気伝導度がn型半導体よりも低い
  • 電子が移動しにくい
  • プラスの電荷を持つ(positiveの頭文字からp型と呼ばれる)

n型半導体とp型半導体の比較

n型半導体p型半導体
多数キャリア自由電子正孔
電気伝導度高い低い
電子移動電子がプラス極へ移動正孔がマイナス極へ移動
電荷マイナスプラス
ドーピングシリコンなどのIV族元素に、V族元素(リン、ヒ素など)を微量添加することで作る。シリコンなどのIV族元素に、III族元素(ホウ素、ガリウムなど)を微量添加することで作る。

n型とp型の半導体を組み合わせた「PN接合」は様々な電子機器に応用できる

PN接合は、p型半導体とn型半導体を接合したものです。PN接合は、ダイオード、トランジスタ、サイリスタなどの基礎となる重要な半導体構造です。整流作用やエネルギー障壁などの特性を利用して、様々な電子機器やシステムで重要な役割を果たしています。

引用元

PN接合の特性

  • 整流作用:一方向にしか電流を流さない性質
  • エネルギー障壁:電荷が空乏層を越えるために必要なエネルギー
  • 降伏電圧:逆方向電圧を増加させると、空乏層が破壊され、電流が流れ始める電圧

PN接合を用いた素子

  • ダイオード:整流作用を利用した素子。順方向に電流が流れ、逆方向にはほとんど流れません。
  • トランジスタ:スイッチングや信号増幅を利用した素子。p型とn型半導体を組み合わせた構造により、微弱な信号で大きな電流を制御することができます。
  • サイリスタ:高電圧・高電流のスイッチングを利用した素子。四層構造を持つ半導体素子で、ダイオードよりも大きな電流を制御することができます。

PN接合の応用例

  • 整流器:交流を直流に変換する
  • スイッチング回路:電子機器の電源スイッチなど
  • 信号増幅回路:音響機器やアンプなど
  • 発光ダイオード:LED照明など
  • 太陽光発電:太陽光エネルギーを電気エネルギーに変換する

n型半導体は今後10年間でどんな活躍ができるか

n型半導体市場は、今後10年間、ますます需要が伸びていくことが予想されます。あくまでも試論ではありますが、マーケットニーズを加味すると、以下のような需要拡大が予測できます。

  • スマートフォンやウェアラブルデバイスなどの電子機器の普及
  • 電気自動車や産業用ロボットなどの市場拡大
  • データセンターやAI技術の発展

以下で各分野におけるn型半導体の需要についてまとめました。

医療分野におけるn型半導体の需要

  • 高精度な画像診断装置
  • ウェアラブル医療デバイス
  • マイクロロボットによる体内手術

エネルギー分野におけるn型半導体の需要

  • 次世代太陽電池
  • スマートグリッド
  • 電気自動車

情報通信分野におけるn型半導体の需要

  • 5G通信
  • 次世代通信規
  • AI技術

まとめ:n型半導体の主な特徴

①自由電子が多数キャリアである

真性半導体とは異なり、n型半導体には不純物によって生成された自由電子が多数存在します。これらの自由電子が電流の流れを担います。

②電気伝導度が高い

自由電子が多数存在するため、n型半導体は真性半導体よりも電気を通しやすくなります。

③電子が移動しやすい

自由電子は価電子帯から解放されているため、真性半導体よりも電子が移動しやすくなります。

④マイナスの電荷を持つ

自由電子はマイナスの電荷を持つため、n型半導体は全体としてマイナスの電荷を持ちます。

⑤ドーピング技術で作られる

n型半導体は、ドーピングと呼ばれる技術を用いて真性半導体に不純物を添加することで作られます。

【参考文献】

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この記事を書いた人

株式会社菅製作所

北海道北斗市で、スパッタ装置やALD装置等の成膜装置や光放出電子顕微鏡などの真空装置、放電プラズマ焼結(SPS)による材料合成装置、漁船向け船舶用機器を製造・販売しています。
また、汎用マイコン・汎用メモリへの書込みサービスも行っています。

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