
真空技術が不可欠な現代産業において、真空度の正確な測定はプロセスの成否を左右します。中でも「ピラニ真空計」は、その手軽さと信頼性から多くの現場で活躍する主要な真空計です。
しかし、この計器がどのような原理で機能し、どのように読み取るべきかを深く理解していなければ、誤った判断からプロセスの再現性を損なう可能性もあります。この記事では、ピラニ真空計の基本的な仕組みから、測定原理、具体的な使い方、そしてその注意点までを徹底的に解説し、真空度測定におけるあなたの理解を深めることを目指します。
目次
ピラニ真空計の基礎知識
ピラニ真空計の定義と特徴
ピラニ真空計は、真空度を測定するための電気抵抗型真空計です。熱伝導の原理を利用しており、比較的安価で広く普及しています。コントローラーと測定子、そしてこれらを繋ぐケーブルで構成されるのが一般的です。シンプルながらも信頼性が高く、多くの産業分野で利用されています。
他の真空計との違い
ピラニ真空計は、熱伝導を利用する点で他の真空計と異なります。例えば、ブルドン管圧力計のような直接測定式とは異なり、気体分子の熱を奪う量から間接的に圧力を測定します。また、電離真空計のような超高真空領域を測定するゲージとは異なり、主に中真空領域でその性能を発揮します。構造が比較的シンプルで頑丈なため、大気圧に開放しても損傷しにくいという特徴も持ち合わせています。
ピラニ真空計の測定原理と構造
熱伝導を利用した圧力測定の仕組み
ピラニ真空計の原理は、加熱されたフィラメントから気体分子が熱を奪う量で圧力を測るというものです。測定子内の細いプラチナ(Pt)線であるフィラメントに電流を流して加熱すると、周囲の気体分子がこれに衝突し、熱を奪います。気体分子の数が少ない(圧力が低い)ほど熱の奪われ方は少なく、気体分子の数が多い(圧力が高い)ほど多くの熱が奪われます。この熱の奪われ方、つまりフィラメントの温度変化や、温度を一定に保つために必要な電力の変化を測定し、圧力値に換算します。
フィラメントの役割と材質
フィラメントはピラニ真空計の心臓部であり、通常はプラチナ(Pt)線が用いられます。これはプラチナが温度による電気抵抗の変化が安定しており、感度が高いためです。このフィラメントが、真空度に応じた熱の放散を感知し、電気信号へと変換する重要な役割を担っています。
ピラニ真空計の使用方法と注意点
測定範囲と適用領域
ピラニ真空計の一般的な測定範囲は0.1Paから2kPa程度です。これは、真空ポンプの粗引き段階から中真空領域の測定に特に適しています。半導体製造装置のロードロック室や、真空乾燥、真空冶金などの分野で広く利用されています。
使用上の注意点とトラブル対策
ピラニ真空計は、測定する気体の種類によって測定値に誤差が生じるという点に注意が必要です。例えば、空気で校正されている場合、ヘリウムガスなどを測定すると異なる値を示すことがあります。これは、気体ごとの熱伝導率の違いによるものです。正確な測定のためには、測定気体に応じた補正が必要となる場合があります。また、フィラメントが汚染されると測定精度が低下するため、定期的な清掃や交換が推奨されます。
ピラニ真空計とスパッタリング成膜
スパッタリング成膜において、真空度は非常に重要なパラメーターです。どのようなメカニズムで真空度が表示されているかを理解していないと、誤った真空度の解釈により再現性の悪い成膜を行ってしまう可能性があります。
以下にピラニ真空計を例にご紹介します。
測定原理
この真空計は、気体分子による熱伝導の変化を利用して圧力を測定します。内部には、プラチナなどの細い金属線材でできたフィラメントがあり、これに電流を流して約200℃の一定温度に加熱します。
- フィラメント周辺の気体分子が多ければ、フィラメントから奪われる熱量が多くなり、温度が下がろうとします。
- 逆に、気体分子が少なければ、熱が奪われにくく、温度が上昇しようとします。
ピラニ真空計は、このフィラメントの温度を一定に保つために必要な供給電力の増減を測定し、それを圧力に換算して真空度を表示します。
長所と短所
- 長所: 構造がシンプルで非常に頑丈です。フィラメントが断線する経験はほとんどなく、信頼性が高いのが特徴です。
- 短所:
- 高真空は測れません。測定範囲には限界があります。
- ガス依存性があります。気体分子が熱を奪う能力はガス種によって異なるため、大気中(窒素が約70%)とアルゴン、酸素、ヘリウムなどのガスでは、測定値の絶対値に違いが生じます。厳密な測定には、取扱説明書でガス種ごとのばらつきを確認し、補正する必要があります。
まとめ
ピラニ真空計は、熱伝導の原理を利用して中真空領域の圧力を測定する、信頼性の高い電気抵抗型真空計です。シンプルながらも頑丈な構造を持ち、多くの産業分野で広く利用されています。
しかし、気体の種類によって測定値に誤差が生じる「ガス依存性」や、高真空の測定には適さないといった特性を理解することが重要です。スパッタリング成膜のように精密な真空度管理が求められるプロセスにおいては、これらの特性を把握し、適切に真空計を運用することが、安定した品質と再現性を確保する鍵となります。
北海道北斗市に拠点を置く株式会社菅製作所は、独自の技術力を駆使し、幅広い分野で皆様の挑戦をサポートしています。スパッタ装置やALD装置等の成膜装置や光放出電子顕微鏡などの真空装置、放電プラズマ焼結(SPS)による材料合成装置、漁船向け船舶用機器を製造・販売しています。また、汎用マイコン・汎用メモリへの書込みサービスも行っています。どのような研究開発でも一度ご相談ください。菅製作所が独自に培った技術力で皆様の創造をアシストします。
【参考】