真空度とは?定義・単位・測定方法について

私たちの身の回りには、意識せずとも多くの真空技術が活用されています。スマートフォンやパソコンの心臓部である半導体の製造から、食品のフリーズドライ、さらには最先端の科学実験まで、多岐にわたる分野で「真空」が重要な役割を担っているのです。

しかし、「真空」とは一体何でしょうか?そして、その「真空度」はどのように測られているのでしょうか?

本記事では、私たちの生活を支える不可欠な技術である真空について、その基本的な定義から、時代とともに変化してきた単位、さらには用途に応じた真空の種類と測定方法まで、分かりやすく解説します。

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真空度の基礎知識

真空度とは何か?

真空度とは、ある空間内に存在する気体の希薄さの度合いを示す指標です。簡単に言えば、空間からどれだけ空気が抜かれているか、ということを数値で表したものです。

気体分子の数が少なければ少ないほど、真空度は高い(=より「良い」真空状態)とされます。

日常生活で感じる空気の圧力は、大気圧と呼ばれ、海面付近で約1013hPa(ヘクトパスカル)です。この大気圧を基準として、それよりも圧力が低い状態が「真空」と呼ばれます。

真空度の単位とその違い

私たちは日々、意識することなく空気の重さを背負って生活しています。この空気の圧力を示すのが気圧で、その単位は歴史の中でさまざまな変遷を遂げてきました。

現在、国際単位系(SI)ではパスカル(Pa)が主流です。

天気予報で目にする「ヘクトパスカル(hPa)」は、Paの100倍を表す単位で、台風の中心気圧などで聞き覚えがあるかもしれませんね。

Paは「ニュートン毎平方メートル」と同じ意味で、1平方メートルあたりに加わる力の大きさを表します。

しかし、気圧の単位の歴史はPaだけではありません。17世紀頃に圧力が測定され始めた当初は、水銀柱の高さで気圧を示す「ミリメートルエイチジー(mmHg)」が使われていました。かつて理科の教科書や天気予報でもよく見られた単位です。

20世紀に入ると「トル(Torr)」という単位も登場しました。厳密な定義は異なりますが、これもmmHgと同様に水銀柱の実験に基づいた単位で、一部の分野で使われてきました。

このように、気圧の単位は科学技術の発展とともに変化し、それぞれの時代や分野で異なる表現が用いられてきたのです。

真空の種類と用途

  • 低真空

大気圧に近い状態の真空です。主に物体を吸着させる真空チャックや、樹脂の真空成形など、大気圧との差を利用する身近な作業に利用されます。比較的簡単な構造の真空ポンプで作り出すことができます。

  • 中真空

低真空よりも気体分子が少ない状態です。主に薄膜を形成する装置(CVD装置、スパッタリング装置など)で利用され、より高品質な膜を作るために不可欠です。

  • 高真空

さらに気体分子が少ない状態です。中真空の用途に加え、食品のフリーズドライなど、清浄な環境や乾燥が必要な場面で活躍します。

  • 超高真空

極めて気体分子が少ない、宇宙空間に近い環境です。素粒子実験や、非常にきれいな表面を持つ物質を作り出すための装置など、最先端の研究分野で不可欠な技術です。

  • 極高真空

超高真空よりもさらに究極の真空状態です。かつては実用化が難しいとされていましたが、今日の素粒子物理学表面科学といった、究極の真空が要求される研究分野で活用されています。

このように、目的とする真空度によって必要な真空ポンプや真空計の種類が大きく異なります。例えば、低真空を作るには比較的シンプルなポンプで十分ですが、超高真空や極高真空を作り出すには、非常に高性能な真空ポンプと精密な測定器が必要になります。

真空度の測定方法

真空は目に見えないため、その度合いを正確に知るためには「真空計」という特別な測定器が不可欠です。真空計には様々な種類があり、測定する圧力の範囲や原理によって使い分けられます。

大きく分けて、真空度の測定方法は以下の3つです。

機械的な方法(直接法)

これは、圧力によって素材が変形する様子を直接測る方法です。

例えば、「ダイヤフラムゲージ」は、薄い金属膜(ダイヤフラム)が圧力でたわむ量を測定します。この方法は、ガスが何であっても正確な圧力を測れるのが強みで、主に大気圧に近い低真空領域で使われます。

熱の伝わり方を利用する方法(間接法)

気体分子が少なくなると、熱の伝わり方が変化するという性質を利用します。「ピラニゲージ」や「サーモカップルゲージ」が代表的です。

これらのゲージは、温められたフィラメント(細い線)から気体に奪われる熱の量を測定し、そこから圧力を算出します。測定範囲は比較的広いですが、ガスの種類によって熱の伝わり方が異なるため、補正が必要になることがあります。低真空から高真空まで幅広く使われます。

イオンの量を利用する方法(間接法)

非常に少ない気体分子を高精度に測定する方法です。残っている気体分子に電子をぶつけてイオン化し、そのイオンの数を測ることで圧力を求めます。

ペニングゲージ」や「B-Aゲージ(ベイアード-アルパートゲージ)」などがこれにあたります。高真空から超高真空といった、より高い真空度を測るのに適していますが、ガス種の影響を受けやすく、フィラメントの寿命などの考慮も必要です。

半導体と真空の関係

スマートフォンやパソコンの頭脳である半導体は、私たちのデジタルライフに欠かせません。

しかし、その製造過程の多くが、実は「真空」という特殊な環境下で行われていることをご存知でしょうか?半導体製造装置の心臓部である真空チャンバーは、まさにこの真空環境を作り出すための箱です。

半導体製造に真空が必要な理由は主に3つあります。

①不純物の徹底排除

半導体は非常にデリケートな部品で、わずかなホコリや空気中のガスなどの不純物が混ざるだけで、その性能に大きな影響が出ます。真空状態では、これらの不純物が極めて少ないため、高純度な半導体を効率良く作ることができます。

②低温での精密加工

真空環境下では、物質の沸点が低下します。これにより、通常よりも低い温度で材料を蒸発させたり、加工したりすることが可能になります。半導体に熱によるダメージを与えることなく、極めて精密な加工を行えるのは、真空ならではの利点です。

③プラズマの効率的な生成

半導体製造では、プラズマという特殊な状態のガスを利用した加工技術が多用されます。真空状態では、気体分子が少なく、互いの衝突が抑制されるため、プラズマを安定的に、かつ少ないエネルギーで発生させることができます。これにより、均一で効率的な加工が実現するのです。

まとめ

本記事では、私たちの日常生活から最先端技術までを支える「真空」の概念を深く掘り下げてきました。真空とは単に「何もない状態」ではなく、その希薄さの度合いを示す「真空度」によって細かく分類され、それぞれ異なる用途で活用されていることをご理解いただけたかと思います。

パスカル(Pa)やトル(Torr)といった単位の変遷から、機械式、熱伝導式、イオン化式といった多様な測定原理、そしてそれぞれの真空計が持つ特性まで、真空度を正確に把握するための基礎知識を解説しました。

特に、半導体製造における真空の重要性は、不純物排除、低温加工、プラズマ生成といった点で顕著です。真空技術は今後も進化を続け、私たちの未来を形作る上で不可欠な要素であり続けるでしょう。

【参考】

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株式会社菅製作所

北海道北斗市で、スパッタ装置やALD装置等の成膜装置や光放出電子顕微鏡などの真空装置、放電プラズマ焼結(SPS)による材料合成装置、漁船向け船舶用機器を製造・販売しています。
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