
プラスチックや樹脂の表面に金属膜を形成したいものの、
「成膜時の熱で基材が変形してしまう」
「耐熱温度を超えてしまうのが心配」
という方もいるのではないでしょうか。
プラスチックは、金属やセラミックスと比べて熱の影響を受けやすい材料があり、成膜方法や条件によっては、変形・収縮などの問題につながる可能性があります。
今回はプラスチックの耐熱温度以下で成膜するための考え方や、スパッタリングでの温度管理について解説します。
プラスチックを耐熱温度以下で成膜する必要がある理由
プラスチックへの成膜では、まず使用する基材がどの程度の温度に耐えられるのかを把握することが重要です。
プラスチックの「耐熱温度」は成膜条件を決める重要な指標
プラスチックへの成膜では、使用する基材がどの程度の温度に耐えられるのかを把握しておく必要があります。
プラスチックといっても、PET、ポリイミド、PEEK、PEI、アクリルなど、材料によって熱特性や寸法安定性は異なります。
そのため、「プラスチックなら◯℃まで」というように一律に考えるのではなく、使用する基材のメーカー仕様やデータシートを確認したうえで、成膜条件を検討することが重要です。
プラスチックは成膜時の熱で変形・収縮することがある
プラスチック基材では、成膜時の温度上昇によって、変形や収縮などが生じる可能性があります。[※1]
特に、寸法精度が求められる部品やフィルムなどでは、成膜前後で形状や寸法が変化すると、その後の工程や製品性能に影響する場合があります。
そのため、基材の耐熱性を確認するだけでなく、成膜中に基材へどの程度の熱が入るのかを考慮して成膜条件を設定することが重要です。
プラスチックの種類によって耐熱性や寸法安定性は異なる
同じプラスチックでも、材料によって熱に対する挙動は異なります。
さらに、基材の厚さやサイズ、形状などによっても、成膜時の温度変化や寸法変化が異なる可能性があります。
そのため、文献などに掲載されている成膜条件をそのまま適用するのではなく、実際に使用する基材で成膜条件を確認しましょう。
なぜ成膜中にプラスチックの温度が上がるのか?
スパッタリングで発生する熱と、実際の基材温度を管理する重要性について説明します。
スパッタリングでも基材に熱が入る
スパッタリングは、プラズマ中のイオンをターゲットに衝突させ、ターゲットから放出された原子を基板へ付着させて薄膜を形成するPVD方式の成膜方法です。
基板を意図的に加熱していない場合でも、成膜中はプラズマなどから基材へ熱が入り、基板温度が上昇します。[※2]
つまり、スパッタリングだから「基材を加熱しない=基材が熱くならない」というわけではありません。
成膜温度を管理するには基材に入る熱を考える
成膜時の温度を管理する場合、装置の設定温度だけを見るのではなく、実際に成膜される基材の温度を確認することが重要です。
基材に入る熱は、成膜条件や成膜時間、基材の種類・サイズなどによって変わる可能性があります。
そのため、プラスチックの耐熱温度以下で成膜したい場合は、
- 成膜中の基材温度
- 成膜時間
- スパッタ電力
- 基材の種類・サイズ
- 冷却機構の有無
などを考慮しながら条件を検討する必要があります。
プラスチックを耐熱温度以下で成膜するためのポイント
実際にプラスチックの耐熱温度を超えないようにするには、どのような対策が考えられるのでしょうか。
① 基材の温度上昇を抑える
プラスチックの耐熱温度を超えないようにするためには、成膜中の基材温度上昇を抑えることが重要です。[※2]
その方法の一つが、基板ホルダーなどの冷却機構を利用することです。
成膜中に基材へ熱が入る場合でも、冷却によって熱を逃がすことで、基材温度の上昇を抑える方向で条件を検討できます。
② スパッタ条件を調整して熱・ダメージを抑える
冷却だけでなく、スパッタ条件そのものを調整することも重要です。
スパッタ電力・成膜時間・ガス圧力など、複数の条件が成膜結果に関係します。
ただし、電力を下げればよいという単純な話ではありません。
電力を下げることで成膜速度や膜質などに影響する可能性があるため、基材温度、成膜速度、膜質、密着性などのバランスを見ながら条件を調整することが重要です。
③ 低温化だけでなく膜の密着性も確認する
「耐熱温度以下で成膜できた」というだけでは、十分とはいえません。
成膜後に金属膜が簡単に剥がれてしまえば、実用上の問題になります。
特にプラスチック基材では、基材表面の状態や膜材料、前処理などが密着性に影響する可能性があります。[※3]
そのため、低温化を検討するときには、基材温度だけでなく、膜の密着性や外観、膜厚なども合わせて評価することが重要です。
低温スパッタリングはプラスチックへの成膜に使える?
プラスチック基板への低温スパッタ成膜に関する研究例と、低温化を検討する際の装置・条件面のポイントを紹介します。
プラスチック基板への低温スパッタ成膜の研究例がある
プラスチック基板への成膜では、基材への熱負荷やダメージを抑えることが重要な課題となります。
実際に、プラスチックフィルム基板への透明導電膜形成について、低温成膜や低ダメージスパッタ法を検討した研究があります。[※2]
また、Co-Cr薄膜をポリイミド基板上にRFスパッタリングで形成した研究では、低温の基板条件で成膜を行い、基板温度による膜特性の違いが検討されています。[※4]
ただし、こうした研究結果は、特定の基材・膜材料・装置・成膜条件におけるものです。
実際に使用する基材と膜材料に合わせて、成膜条件を検討する必要があります。
低温・低ダメージ化には装置構成も関係する
低温成膜を実現するには、単純に基板を加熱しないだけではなく、成膜条件や装置構成を含めて考える必要があります。
特に、熱に弱いプラスチックでは、
基材温度を確認する
→ 成膜条件を調整する
→ 必要に応じて基材を冷却する
→ 膜質・密着性を確認する
というように、複数の条件を組み合わせて検討することが重要です。
SSP3000なら基板を冷却しながら成膜できる

プラスチックの耐熱温度以下での成膜を検討する際に、菅製作所のSSP3000がどのように温度管理に対応できるのかを説明します。
基板ホルダー冷却機構で成膜中の温度上昇を抑える
プラスチックなど熱に弱い基材への成膜では、成膜中の温度上昇をどう抑えるかが重要なポイントになります。
菅製作所では、成膜時の温度上昇を抑えるため、基板ホルダー冷却機構を備えたSSP3000を用意しています。[※5]
つまり、冷却機構を備えた仕様であれば、基板を冷却しながら成膜することで、成膜中の温度上昇を抑える方向で条件を検討できます。
プラスチック基材では実際の温度を確認しながら条件を検討する
プラスチックへの成膜では、文献上の条件や装置の設定値だけで判断せず、実際の基材で確認することが重要です。
例えば、
- 成膜中の基材温度
- 成膜後の基材の変形・収縮
- 金属膜の外観
- 膜厚
- 膜の密着性
などを確認します。
SSP3000は、研究開発から少量生産まで幅広い用途に対応する高性能・多機能型のスパッタ装置です。
冷却しながら成膜できるSSP3000で条件を検討する
菅製作所では、基板ホルダー冷却機構を備えたSSP3000を用意しています。
成膜中の基材温度・膜の密着性をどのように確認するかは、基材と膜材料、目標膜厚を伝えたうえでご相談ください。
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お問い合わせフォームからのご相談
まずは文面で内容を整理してから相談したい場合は、お問い合わせフォームをご利用ください。ご希望の成膜方法、基板の材質・サイズ、膜の材料・膜厚、ご希望の数量などを合わせてお伝えいただくと、その後のやり取りがスムーズです。
まとめ
プラスチックの耐熱温度以下で成膜するには、基材の耐熱性を確認するだけでなく、成膜中に実際の基材温度がどこまで上昇するのかを把握することが重要です。
スパッタリングは基材を意図的に加熱しない条件でも、成膜中にプラズマなどから熱が入り、基板温度が上昇する可能性があります。
そのため、プラスチックへの成膜では、下記のような対応が重要です。
- 基材の耐熱温度を確認する
- 成膜中の基材温度を確認する
- スパッタ条件を調整する
- 必要に応じて基材を冷却する
- 成膜後の膜質・密着性も確認する
菅製作所では、成膜時の温度上昇を抑えるため、基板ホルダー冷却機構を備えたSSP3000を用意しています。プラスチック基材への成膜をご検討の際は、お気軽にご相談ください。
参考文献
- [※1]小川 倉一「プラスチック基材へのガスバリア膜の低温形成技術と性能評価」(2010年)
- [※2]星 陽一「プラスチックフィルム基板上への低抵抗・高密着性透明導電膜の高速成膜技術の開発」研究成果報告書概要 (2005年)
- [※3]近藤 英一「ポリイミド上に堆積したCu-1 mass%Ti合金薄膜の密着性および結晶配向性」(2000 年 64 巻 9 号 p. 715-718)
- [※4]高橋 健一, 本多 茂男, 楠田 哲三「低温基板上 Co-Cr スパッタ膜の磁気特性及び磁化過程」(1987年11巻2号 p. 77-80)
- [※5]菅製作所「SSP3000」






