
樹脂やフィルムなどの熱に弱い素材に金属膜を形成したいものの
「成膜時の熱で基材が変形してしまわないか」
「金属膜がきちんと密着するのか」と悩んでいませんか。
金属膜の成膜方法には、真空蒸着やスパッタリングなどがあります。なかでもスパッタリングは、金属を加熱して蒸発させるのではなく、イオンをターゲットに衝突させて材料を飛ばすことで薄膜を形成する方法です。そのため、熱に弱い基材への成膜方法として検討できます。
今回は、熱に弱い素材へ金属膜を成膜する際に熱負荷を抑える方法や、剥がれにくい膜を形成するためのポイントを解説します。
なぜ「熱をかけずに」金属膜を成膜したいのか?
金属膜を形成する方法には、真空蒸着やスパッタリングなど、さまざまな成膜方法があります。
そのなかでも、樹脂やフィルムなど熱に弱い素材へ成膜する場合は、成膜時の基材温度をどのように管理するかが重要です。
① 成膜後の加熱で金属膜の強度が変化する
成膜した金属膜は、加熱によって性質が変化する場合があります。
スパッタリングで作製したAlおよびAl合金薄膜を対象とした研究では、熱処理温度が薄膜の変形特性に与える影響が調べられています。
研究では、Al合金の一部で、熱処理温度に応じて結晶粒径や0.2%耐力が変化したことが報告されています。[※1]
このように、金属膜は成膜した時点で終わりではなく、その後に受ける熱履歴によっても性質が変化する可能性があります。
そのため、金属膜の用途によっては、成膜後の熱処理だけでなく、成膜工程そのものにおける熱履歴についても考慮する必要があります。
② 熱に弱い基材(樹脂・フィルム)が変形・収縮する
樹脂やフィルムに金属膜を形成する場合、成膜中の温度上昇によって基材が軟化し、変形や収縮につながるおそれがあります。
青森県産業技術センターの「樹脂基板への成膜技術の開発」でも、成膜中の熱による樹脂の軟化が課題として挙げられています。[※2]
樹脂やフィルムの耐熱性、熱による寸法変化のしやすさは素材によって異なります。そのため、使用する基材の特性を確認し、成膜中の温度上昇を考慮して条件を設定することが重要です。
③ 低温成膜では「膜の密着性」も重要になる
熱負荷を抑えることだけを優先すると、形成した金属膜の密着性や膜質に影響する場合があります。
特に樹脂などの基材では、基材表面の状態や成膜条件によって、金属膜との密着性が変化します。
そのため、熱負荷を抑えることと、形成した膜を基材にしっかり密着させることを両立することが重要です。
スパッタリングでは金属膜の成膜時に熱負荷をどう抑える?
熱に弱い素材へ金属膜を形成する方法の一つが、スパッタリングです。
スパッタリングはPVD(物理蒸着法)の一種で、真空中でターゲット材料にイオンを衝突させ、弾き出されたターゲット原子を基板へ付着させて薄膜を形成します。
ただし、スパッタリングだからといって、基板温度がまったく上昇しないわけではありません。
熱に弱い素材へ成膜する場合は、スパッタリングの原理を理解したうえで、成膜条件や装置構成を工夫しながら基板への熱負荷を管理することが重要です。
① 金属を「熱で蒸発させる」のではなく、イオンの衝突で飛ばす
スパッタリングでは、金属を加熱して蒸発させるのではなく、プラズマ中で発生したイオンをターゲットへ衝突させ、ターゲット表面から材料原子を叩き出します。
叩き出されたターゲット材料が基板へ到達し、薄膜を形成する仕組みです。
真空蒸着では、成膜材料を加熱して蒸発させ、その蒸気を基板へ付着させます。一方、スパッタリングではイオンの衝突によってターゲット材料を飛ばすため、材料を基板へ供給する仕組みが異なります。
スパッタリングの原理については、以下の記事でも詳しく解説しています。
② 基材を積極的に加熱せず、熱負荷を抑えた成膜ができる
スパッタリングでは、ターゲットを加熱・蒸発させるのではなく、イオンの衝突によって材料を飛ばして成膜します。
そのため、熱に弱い基材へ成膜する際には、基材への熱負荷を抑える方向で成膜条件を検討できます。
ただし、スパッタリング中にはプラズマや飛来する粒子などによって基板温度が上昇する場合があります。
したがって、「スパッタリングなら基材を一切加熱しない」と考えるのではなく、基板温度を測定・管理しながら、素材に適した条件を探ることが重要です。
③ スパッタリングではさまざまな材料の薄膜を形成できる
スパッタリングは、金属だけでなく、合金や絶縁材料、酸化物など、さまざまな材料の薄膜形成に利用できます。
菅製作所のスパッタ装置では、金属膜や絶縁膜、保護膜、反射膜、合金、触媒などの成膜が可能とされています。
また、高融点材料や絶縁材料にも対応できることがスパッタリングの特徴です。
熱に弱い基材へ金属膜を形成したい場合も、基材と目的とする膜の組み合わせに応じて、適切な成膜条件を検討できます。
④ 反応性スパッタリングなら酸化物・窒化物なども形成できる
スパッタリングでは、酸素や窒素などのガスを導入することで、酸化物や窒化物などの化合物膜を形成する「反応性スパッタリング」も可能です。
例えば、酸素や窒素などを導入して成膜することで、金属単体とは異なる特性を持つ薄膜を形成できます。
金属膜だけでなく、用途に応じて機能性のある薄膜を形成できることも、スパッタリングの特徴です。
反応性スパッタリングについては、以下の記事で詳しく解説しています。
▽反応性スパッタリングのメカニズムについて
熱負荷を抑えながら剥がれにくい金属膜を作る3つのポイント
熱に弱い基材へ成膜する場合、単純に成膜温度を下げるだけでは十分とは限りません。
基板温度、基材表面、成膜条件の3つを考慮しながら、膜質と密着性を両立できる条件を探すことが重要です。
① 基板を冷却して成膜中の温度上昇を抑える
成膜中の基板温度上昇を抑えるため、基板ホルダーやステージの冷却機構を利用する方法があります。[※3]
特に熱に弱い樹脂やフィルムなどでは、成膜中に基板温度がどの程度まで上昇するのかを確認し、必要に応じて冷却などの対策を検討します。
重要なのは、単に「冷やせばよい」と考えるのではなく、実際の基材と成膜条件に合わせて必要な冷却方法を検討することです。
菅製作所でも、スパッタ成膜時の基板温度を測定する取り組みを紹介しています。
② 成膜前にプラズマで基材表面を前処理する
金属膜の密着性を高める方法として、成膜前にプラズマ処理などの前処理を行う方法があります。
スパッタリングでは、成膜前に基材表面をプラズマで処理することで、表面の状態を整えてから成膜できる場合があります。
また、ポリイミドフィルムへの銅膜形成に関する研究では、RF逆スパッタによってポリイミド表面を処理し、銅膜との密着性を高める方法が検討されています。[※4]
熱に弱い基材では、強い加熱によって密着性を改善するのではなく、表面処理など別の方法によって密着性を高めることも重要な選択肢になります。
③ スパッタ電力・ガス圧力などの成膜条件を最適化する
熱に弱い素材へ金属膜を形成する場合、基板温度を抑えるためにスパッタ電力を下げるだけでは、必要な膜質や成膜速度が得られない場合があります。
スパッタリングでは、電力やガス圧力などの条件によって、形成される薄膜の性質が変わります。
そのため、基板温度だけでなく、膜質・密着性・成膜速度も確認しながら、基材と金属膜の組み合わせに適した条件を探すことが重要です。
熱に弱い基材への成膜でよくある失敗と対策
熱に弱い素材への成膜では、温度だけでなく、基材と膜の組み合わせや成膜条件まで含めて検討する必要があります。
ここでは、成膜時によくある問題と、その対策の考え方を紹介します。
基材が変形・収縮してしまう
成膜中の温度上昇によって、樹脂やフィルムなどの基材が軟化・変形することがあります。[※2]
特に、基材の耐熱温度に近い条件で成膜すると、温度上昇によって寸法変化などが生じる可能性があります。
対策としては、まず基材の耐熱温度や使用可能温度を確認し、成膜中の基板温度を測定します。
そのうえで、必要に応じて成膜条件の見直しや基板の冷却などを検討します。
金属膜が剥がれてしまう
基材が変形しなくても、形成した金属膜が剥離してしまえば、製品や試作品として使用できません。
特に樹脂やフィルムでは、基材表面の状態が膜の密着性に影響する場合があります。
そのため、成膜前の表面処理やプラズマクリーニング、逆スパッタなどを検討し、基材と膜の組み合わせに適した条件を探すことが重要です。
また、ポリイミドへの銅膜形成の研究でも、成膜前の処理条件などによって密着性を改善する方法が検討されています。[※4]
低温化したら成膜速度や膜質に影響が出てしまう
「基材への熱負荷を抑えたい」という理由だけで成膜条件を変更すると、成膜速度や膜質、密着性などに影響する可能性があります。
そのため、低温化では、基板温度だけを単独で下げるのではなく、スパッタ電力、ガス圧力、成膜時間などを含めて条件を調整することが重要です。
熱負荷を抑えながら必要な膜性能を得るには、実際のサンプルを用いて条件を一つずつ確認することが有効です。
熱をかけずに金属膜を形成できるか?
ここまで紹介したように、熱に弱い素材への成膜では、単純に「成膜温度を下げればよい」というわけではありません。
基材・成膜材料・膜厚・成膜条件などを組み合わせて、実際のサンプルで確認することが重要です。
基材・金属・膜厚によって最適な条件は変わる
同じ樹脂基材でも、素材の種類や形状、厚みなどによって熱への強さは異なります。
また、使用する金属材料や膜厚によっても、適した成膜条件は変わります。
そのため、一般的な条件をそのまま適用するのではなく、実際に使用する基材と成膜材料を使って条件を検討することが重要です。
実際のサンプルで密着性や外観を確認する
低温成膜では、基材が変形しないかだけでなく、形成した膜についても確認する必要があります。
例えば、
- 基材に変形・収縮がないか
- 金属膜が均一に形成されているか
- 膜が剥がれないか
- 外観に問題がないか
- 必要な膜厚を確保できているか
などを確認します。
特に研究開発段階では、実際の製品や試作品に近いサンプルを用いて成膜条件を確認することで、装置導入後の条件検討を進めやすくなります。
熱に弱い素材へのスパッタリングにはSSP3000

熱に弱い素材への成膜では、基板温度を含めて成膜条件を細かく検討できる装置が求められます。
菅製作所のSSP3000は、高性能・多機能型のスパッタ装置で、研究開発から少量生産まで幅広く利用できる上位モデルです。φ2インチマグネトロンカソードを3基搭載し、φ100mm以内で膜厚分布±3%以下を実現しています。[※5]
菅製作所では、SSP3000について、成膜時の温度上昇を抑えるための基板ホルダー冷却機構を備えた装置を用意しています。
基板ホルダー冷却機構を備えたSSP3000では、基板を冷却しながら成膜することで、熱に弱い基材への熱負荷を抑える方向で成膜条件を検討できます。
「成膜したい素材が熱に弱い」「成膜中の温度上昇が心配」という場合に、冷却機構を利用できることはSSP3000の大きなポイントです。
基材の耐熱温度やサイズ、成膜材料、スパッタ電力などによって温度上昇は変わるため、実際のサンプルを用いて成膜条件を確認することが重要です。
「この素材に金属膜を形成したいが、基材をできるだけ加熱したくない」「冷却しながら成膜して、基板温度の上昇を抑えたい」といった場合は、お気軽にご相談ください。
お電話でのお問い合わせ(弊社営業部)
お急ぎの場合や、直接詳しく話を聞きながら相談したい場合は、お電話でお問い合わせください。
(受付時間 8:30~17:00、定休:土日祝)
お問い合わせフォームからのご相談
まずは文面で内容を整理してから相談したい場合は、お問い合わせフォームをご利用ください。ご希望の成膜方法、基板の材質・サイズ、膜の材料・膜厚、ご希望の数量などを合わせてお伝えいただくと、その後のやり取りがスムーズです。粉体への成膜をご希望の場合は、その旨も併せてお知らせください。
まとめ
熱に弱い樹脂やフィルムなどへ金属膜を形成する場合、成膜中の温度上昇をどのように抑えるかは重要な検討事項です。
成膜後の熱処理によって金属膜の結晶粒径や機械的特性が変化する場合があるほか、樹脂基材では成膜中の熱によって軟化や変形が起こる可能性があります。
スパッタリングは、金属を加熱・蒸発させるのではなく、イオンをターゲットへ衝突させて材料を飛ばすことで成膜する方式です。そのため、熱に弱い基材への金属膜形成方法の一つとして検討できます。
ただし、スパッタリング中も基板温度が上昇する場合があるため、「熱をかけない」ことだけを目的にするのではなく、基板温度・密着性・膜質・成膜速度などを総合的に考慮して条件を設定することが重要です。
参考文献
- [※1]菅原 大貴, 秋庭 義明, 後藤 裕史「スパッタアルミニウム薄膜の変形特性に及ぼす熱履歴の影響」(2016 年 65 巻 2 号 p. 170-175)
- [※2]青森県産業技術センター「樹脂基板への成膜技術の開発」
- [※3]菅製作所「スパッタ成膜時の基板温度計測 」
- [※4]石井 正人, 渡辺 弘, 片岡 龍男, 益子 泰昭「のりなし銅直付けポリイミドフィルムの製造とFPC, TABへの応用」(1993 年 8 巻 6 号 p. 481-490)
- [※5]菅製作所「SSP3000」









