薄膜を形成するには、いくつかの種類が存在します。
今回はその中の一つ、「真空蒸着法」の原理と種類について説明します。
最後には、身近な例を使い真空蒸着法についてわかりやすく解説しているので、参考になれば幸いです。
薄膜の種類「真空蒸着法」
薄膜を形成するには下図のようにいくつか種類があります。
薄膜の 作り方 | 詳細 |
---|---|
蒸着法 | 真空にした容器の中で、金属や酸化物などの成膜材料を蒸発させて、対向した基板表面に凝着させて薄膜を形成する手法です。 参考※1.2.3.4 |
イオンプレーディング(IP)法 | 原理的には蒸着法とほぼ同じですが、蒸着粒子をプラズマ中を通過させることで蒸着材をイオン化させます。成膜させる基板にマイナスの電圧をかけ、イオン化させた蒸着材を加速させながら基板に衝突させることで薄膜を形成させます。イオン化、加速を行うことにより密着性の高い膜を作ることができます。 参考※1.5 |
スパッタリング法 | 放電によるプラズマ中にできたイオン(通常Ar+イオン)を成膜材料の板(ターゲット)にぶつけて材料をはね飛ばします。はね飛ばされた成膜材料が基板へ飛んでいき薄膜を形成する手法です。スパッタリング法では、高融点金属や合金など、蒸着法では困難な材料でも、成膜が可能で、広範囲な成膜材料に対応できます。 参考※1.5.6 |
化学気相成長(CVD)法 | 成膜したい元素を含む気体を基板表面に送り、化学反応、分解を通して成膜する方法。CVDの中にも基板を加熱させる熱CVD、反応管内を減圧し、プラズマを発生させるプラズマCVDなどの種類がある。 参考※1.7.8 |
原子層堆積(ALD)法 | CVDの1種と言われますが、2種類以上の原料気体(プリカーサー,前駆体)を交互に導入・排気を繰り返し,成膜表面に吸着した原料分子を反応させて膜化する方法を原子層堆積(ALD)といいます。 参考※8.9 |
本日はそのうちの一つ、「真空蒸着法」について解説。
真空蒸着法は、薄膜とする材料を真空中で加熱・蒸発し、蒸気となった材料を基板上で再度固体とし、薄膜として堆積する技術。
真空蒸着法では、蒸発粒子は途中、他の分子に衝突することなく基板に到達するため途中でエネルギーを失ったり、逆にエネルギーを得たりすることはありません。
その前に、真空蒸着法を理解するには、まずは「蒸気」という概念を理解する必要があります。
身近な例で、蒸気といえば水蒸気。
閉め切った部屋でお湯をわかし水を蒸発させると、窓ガラスに水の膜が付着して曇る現象です。
その原理を利用し薄膜を形成します。
蒸着法のポイントは、蒸発源・気化源です。
真空蒸着法において、薄膜を形成する物質を蒸気とする部分を蒸発源といいます。
さらに、蒸発源の加熱方法はいくつか種類があり、抵抗加熱蒸着法、電子ビーム蒸着法、ホローカソード蒸着法、高周波誘導加熱蒸着法などに分けられます。
これらは、蒸着物質の種類や用途に応じて様々な蒸着源が使われます。
蒸発源から蒸発した物質は、基板表面に到達し、凝縮固化し薄膜を形成します。
抵抗加熱蒸着源
シュール熱を使って薄膜とする物質を蒸発させる方法。基板上で拡散が起こりにくく、密で付着力に優れる薄膜を形成。しかし膜堆積速度の制御が困難。
電子ビーム蒸発源
加速された電子ビームを蒸発物質に照射して加熱、気化し、基板上に堆積する手法。
蒸発物質に対して高エネルギーの電子ビームを照射し直接加熱で蒸発させるため、高融点金属や酸化物などの蒸発が可能です。
高周波誘導加熱蒸発源
酸化物るつぼの周りに高周波コイルを巻き、コイルに印加された高周波電力による電磁誘導により、るつぼの材料を加熱・蒸発する方法。
るつぼの容量を大きくできるので、アルミニウムなどの金属を高速で連続蒸着する装置に使われます。
ホローカソード蒸発源
ホローカソード放電を用いたソース。
大電流を得やすいホロー(空洞)放電を用いて大電ビームを取り出し、薄膜材料にあてて膜を形成します。
利点として、基板に与える、プラズマや熱によるダメージが小さく低温処理にも適しています。
テレビ用ディスプレイ、トランスやモーター用電気鉄板へのチタンの窒素膜を蒸着するのに使います。
まとめ
薄膜を形成する時には、用途や物質によって様々な方法や装置が使われます。
今回は、薄膜形成の一つ「真空蒸着法」について解説しました。
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