省エネ・脱炭素の鍵「パワー半導体」 | 身近な家電にも!特徴・仕組みを解説

パワー半導体(パワーデバイス)とは、大きな電力を効率的に制御するための特別な電子部品です。電圧や周波数を変えたり、直流(DC)を交流(AC)に変えたり、交流を直流に変えたりするために使われます。

半導体と聞くと、CPUやメモリなどが思い浮かぶかもしれませんが、これらは「計算をする」や「情報を覚える」といった役割を持つ半導体です。

それに対して、パワー半導体は、電気の流れを管理する半導体です。

たとえば、交流の電気を直流に変えたり、電圧を高いものから低いものに変えたりします。これにより、モーターを動かしたり、バッテリーを充電したり、マイコンやLSIに電気を供給したりします。

つまり、パワー半導体は、私たちが使うさまざまな機器に必要な電気を安全で効率的に供給するために使われます。

電力の流れをコントロールし、電気を効率的に使ったり、無駄を減らしたりすることができますので、パワー半導体は電気自動車や太陽光発電システム、工場の機械などにも使われています。

例えば、モーターを低速から高速まで正確に回したり、太陽電池で作った電気を無駄なく送電網に送ったり、いろいろな家電製品や電気器具に安定した電力を供給するために使われています。

最近は、省エネや省電力が大切にされるようになってきたので、電気の無駄を減らすことができるパワー半導体の需要が増えています。

主な特徴は、以下の3つに整理できます。

  1. 電気の流れをコントロールする:パワー半導体は、スイッチのように電気の流れをオン・オフできます。たとえば、電気を流してモーターを動かしたり、止めたりできます。
  2. 電気の形を変える:パワー半導体は、直流(DC)を交流(AC)に変えたり、逆に交流を直流に変えたりできます。これは、太陽光発電で作られた電気を家庭で使える形に変えるときなどに使われます。
  3. 電気を調整する:電気の強さや周波数を変えることができます。これにより、家電製品や工場の機械が正しく動くように調整します。

身近な例で言うと、家庭用の電子レンジやエアコンにもパワー半導体が使われています。電子レンジは高い電力を短時間で使う必要があり、エアコンは効率的に電力を使って冷暖房を行う必要があります。これらを実現するために、パワー半導体が使われているのです。

この記事では、そんなパワー半導体に関する基本的な知識をまとめました。

パワー半導体の構造と仕組み

以下では、パワー半導体について詳しく解説します。

パワー半導体に組み込まれている2つのスイッチングデバイス

パワー半導体は、主にダイオードとスイッチングデバイスに分けられます。スイッチングデバイスの中では、IGBT(絶縁ゲートバイポーラトランジスタ)とMOSFET(金属酸化膜電界効果トランジスタ)がよく使われています。これらのデバイスにはそれぞれ得意なことと苦手なことがあります。

①IGBT

IGBTは、大電流や高電圧に対応する能力が高く、電気自動車(EV)や鉄道車両用インバータ、太陽光発電用パワーコンディショナーなど、さまざまな分野で使われています。しかし、IGBTはスイッチング特性があまり良くないため、高速なスイッチング動作が苦手です。これは、IGBTが電気を伝えるとき、電子だけでなく、正孔(電子の移動によってできる穴)も関与するため、スイッチング時に電流の切れが悪くなり、大きな損失が発生するからです。

②MOSFET

一方、MOSFETは、1,200ボルト以下の電圧領域で広く使われ、高速なスイッチングが得意です。スイッチング電源などに利用されています。MOSFETは電子だけが電気の伝導に寄与するため、IGBTのような問題がありません。

SiCパワー半導体の登場

これまで、これらのパワー半導体デバイスはシリコン(Si)を基材として作られていましたが、最近ではシリコンと炭素の化合物であるシリコンカーバイド(SiC)を基材とするものが実用化されています。

例えば、新しく作られる鉄道車両のインバータには、SiCパワー半導体が搭載されるケースが増えています。

SiCが使われ始めた理由は、電力変換の効率を向上させるためです。

従来のSiパワー半導体では達成できない高耐圧や低オン抵抗を実現するために、Siよりもバンドギャップが広いワイドバンドギャップ半導体が注目されています。

ワイドバンドギャップ半導体は、原子同士の結びつく力が強く、絶縁破壊を起こす電界強度がSiと比較して非常に高いことが特徴です。

SiCのバンドギャップはSiの約3倍広く、絶縁破壊電界強度は10倍以上です。これにより、SiCで作られたパワー半導体は、Siと同じ耐電圧でもオン抵抗値を大幅に低減できるというメリットがあります。

パワー半導体の種類

パワー半導体には、主に3種類があります。

①ダイオード

ダイオードは、電流を一方向にしか流さない半導体素子で、電気の流れをコントロールするのに使います。LED(発光ダイオード)もダイオードの一つです。

②トランジスタ

トランジスタは、電気のスイッチのオン/オフや、信号の増幅器として使われます。3つの端子(エミッタ、ベース、コレクタ)を持ち、ベースに少しの電流を流すことで、エミッタとコレクタ間の大きな電流を制御できます。

③サイリスタ

サイリスタは、大きな電流を制御するために使われます。4つの層からなる構造を持ち、少しの電流で大きな電流のオン・オフを制御できます。一度オンになると、電流が流れ続ける特徴があり、モーターの制御や電力変換装置などでよく使われます。

パワー半導体が活躍する場面

パワー半導体は、その制御能力を活かして、様々な場所で活躍しています。主に活躍する場面は以下のとおりです。

  • 家電製品:エアコン、冷蔵庫、洗濯機など
  • 自動車:ハイブリッドカーや電気自動車など
  • 太陽光発電:太陽光パネルで発電された電気を電力網に送る
  • 鉄道:新幹線などの電車
  • 工場:大きなモーターを動かす

まとめ

以上みてきたように、パワー半導体は、「使える電気」そのものを司る大事な半導体であることがおわかりいただけたと思います。

発電所から送られてくる電気は、そのままでは使えません。発電所で作られる数十万ボルトの電気は、変電所を経て家庭やオフィス、工場などに届けられるときには、交流の100ボルトや200ボルトに変わります。

しかし、家電製品やオフィス機器は、この電気をそのままでは動かせません。

例えば、テレビやエアコンの中にはマイコンなどの電子部品があり、これらは3ボルトや5ボルトの直流電気で動きます。

各種機器の中にあるパワー半導体は、コンセントに届けられた交流100ボルトや200ボルトの電気を直流に変え、さらにそれぞれの機器に必要な電圧に調整する役割を果たしています。

このようにパワー半導体は、電気の力持ち として、様々な場所で活躍しているのです。

これからも、パワー半導体は私たちの生活を支え、より便利で快適な未来を作ってくれることでしょう。

【参考資料】

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この記事を書いた人

株式会社菅製作所

北海道北斗市で、スパッタ装置やALD装置等の成膜装置や光放出電子顕微鏡などの真空装置、放電プラズマ焼結(SPS)による材料合成装置、漁船向け船舶用機器を製造・販売しています。
また、汎用マイコン・汎用メモリへの書込みサービスも行っています。

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