コイルといえば、電磁石を思い浮かべる人も多いでしょう。しかし、コイルには様々な種類があり、その一つに「空芯コイル」があります。
わたしたち菅製作所は、スパッタ装置と呼ばれる装置を製作しているのですが、RFスパッタ装置では空芯コイルが用いられています。
空芯コイルとは、内部に鉄心などの磁性体を持たないシンプルな構造のコイルです。実は、あなたのスマートフォンやパソコンの中にも使われています。
たとえばワイヤレス充電。充電パッドとスマートフォンなどの充電機器の両方に、この空芯コイルが組み込まれています。充電パッドの空芯コイルに電流を流すと磁場が発生し、スマートフォン内の空芯コイルに近づくと、再び電流に変換され、バッテリーを充電する仕組みです。
空芯コイルは、シンプルな構造でありながら、私たちの生活を支える多くの電子機器に欠かせない存在です。今回は、この空芯コイルの仕組みや特徴、そして私たちの身近な製品への応用についてご紹介します。
目次
空芯コイルの特徴と仕組み
「空芯コイル」は、電線をぐるぐる巻きにしたシンプルな構造のコイルです。コイルの中心には、鉄などの磁石になるような物質は何も入っていません。そのため、「空芯」と呼ばれるのです。
通常のコイルは、鉄芯と呼ばれる磁石になる物質を中に詰めることで、磁力を強くします。しかし、空芯コイルは、鉄芯を使わずに電流を流すことで、磁場を作り出すことができます。この磁場は、コイルの巻き数や電流の大きさによって調整できます。
空芯コイルにはこのような特徴があります。
- 高周波特性に優れている(※巻き数・形状・電線の特性によります)
- 高Q値
- 軽量で小型
- 磁気飽和のリスクがない
- 製造コストが低い
空芯コイルは、電流の変化に対して敏感に反応し、電磁波を発生させたり、他の電子部品と相互作用したりすることができ、ラジオやテレビのアンテナ、高周波回路など、さまざまな電子機器に使われています。
コアコイルとの違い
空芯コイルとコアコイルは、どちらも電流を流すと磁場が発生するコイルですが、内部構造や特性に大きな違いがあります。
コアコイル
コイルの中に鉄心などの磁性体のコアが埋め込まれているコイルです。このコアが磁気を集める働きをするため、同じ大きさのコイルでも空芯コイルよりも強力な磁場を生み出すことができます。そのため、電力変換器や変圧器など、大きな電力を扱う装置によく利用されます。しかし、コアが磁気を帯びる際に発生する熱によってエネルギーの一部が失われるというデメリットもあります。
空芯コイル
コイルの中に何も埋め込まれていないシンプルな構造のコイルです。コアがないため、磁気損失が少なく、高周波の電流にもよく反応します。そのため、ラジオのアンテナや高周波回路など、高周波の信号を扱う装置によく利用されます。ただし、コアコイルに比べて磁場が弱いため、同じ磁場を得るためにはより多くの電流が必要となる場合があります。
特徴 | 空芯コイル | コアコイル |
---|---|---|
構造 | コアなし | コアあり |
磁場 | 比較的弱い | 強力な磁場 |
損失 | 少ない | 熱による損失あり |
用途 | 高周波回路、アンテナなど | 電力変換器、変圧器など |
空芯コイルの用途
空芯コイルは、そのシンプルな構造と高周波特性を生かして、様々な分野で活用されています。
①センサー
- 磁気センサー:空芯コイルは、外部磁場の変化を電圧の変化として検出する磁気センサーに利用されます。磁性体を含まないため、外部からのノイズの影響を受けにくく、高精度な測定が可能です。例えば、自動車のABSセンサーや、磁気カードリーダーなどに用いられます。
- 非接触センサー:空芯コイルは、対象物との物理的な接触なしに、その存在や距離を検出する非接触センサーにも利用されます。例えば、自動ドアのセンサーや、スマートフォンなどの近接センサーなどに用いられます。
②ラジオ周波数(RF)回路
- 高周波コイル:ラジオやテレビなどの通信機器では、高周波信号を増幅したり、周波数を切り替えるために空芯コイルが使われます。空芯コイルは、高周波信号に対して低い損失で動作するため、高効率な回路設計が可能になります。
- フィルタ:不要な周波数の信号を取り除くフィルタ回路にも、空芯コイルは利用されます。インダクタンスとキャパシタンスを組み合わせることで、特定の周波数の信号だけを通過させることができます。
③アンテナ
- 受信アンテナ:ラジオやテレビの受信アンテナとして、空芯コイルが利用されます。空芯コイルは、電磁波を電流に変換する役割を果たし、受信感度を高めます。
- 送信アンテナ:無線LANやBluetoothなどの無線通信において、空芯コイルは電流を電磁波に変換する送信アンテナとして利用されます。
④その他高周波特性:
- 電力変換装置:高周波の電力変換器において、インダクタとして空芯コイルが利用されます。
- ノイズ対策:電子回路におけるノイズ対策として、空芯コイルが利用されることがあります。
まとめ
空芯コイルは、そのシンプルな構造でありながら、高周波特性に優れ、様々な分野で活躍しています。特に、電子機器の高性能化に伴い、その需要はますます高まっています。今後、さらに小型化や高効率化が進み、より広範囲な分野で空芯コイルが利用されることが期待されます。本記事では、空芯コイルの基本的な構造から、その応用までを解説しました。空芯コイルについてより深く理解することで、私たちの身の回りの電子機器がどのように作られているのか、より一層興味が深まることでしょう。
【参考】