ロータリーポンプ使用時におけるオイルバックとは?真空プロセスを守る対策を徹底解説

半導体製造、材料研究、分析機器など、さまざまな分野で不可欠な真空プロセス。その基盤を支える真空ポンプの中でも、特に「粗引き」や「中真空」領域で広く用いられるのが、ロータリーポンプ(RP:油回転真空ポンプ)です。

しかし、このロータリーポンプを使用する上で、避けて通れない重要な課題が「オイルバック」です。

オイルバックは、ポンプ内部の油が真空システム側に逆流してしまう現象を指します。

これが起こると、真空チャンバーやプロセスラインが油で汚染され、研究結果の信頼性低下、製品不良、装置の故障など、深刻な問題を引き起こす可能性があります。

この記事では、真空装置の専門家の視点から、ロータリーポンプにおけるオイルバックの発生メカニズム、そのリスク、そして最も効果的な対策について徹底的に解説します。

特に、わたしたち菅製作所が提供する電磁ロータリーポンプバルブが、このオイルバック問題をどのように解決し、お客様の真空プロセスを守っているのかを詳しくご紹介します。

菅製作所はスパッタ装置やALD装置等の成膜装置、光放出電子顕微鏡などの高性能真空装置、放電プラズマ焼結(SPS)による新材料合成装置、など多岐にわたる技術を提供しています。

お客様の研究開発におけるクリーンな真空環境の維持と効率的なプロセス実現を、RPのオイルバック対策を含む真空機器の深い知見と経験でお手伝いします。 どのような真空に関する課題でも、まずはお気軽にご相談ください。

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ロータリーポンプ(RP)とは?その役割とオイルバックの基礎

ロータリーポンプ(油回転真空ポンプ)は、真空システムにおいて気体を排気し、真空状態を作り出すために広く使用される機械式真空ポンプの一種です。

特に、「粗引き」や「中真空」領域で広く用いられ、TMPの「粗引き」や「バックポンプ」として、あるいは中真空プロセスそのものの排気源として重要な役割を担っています。

真空システムにおけるロータリーポンプの重要性

ロータリーポンプは、大気圧から中真空領域(約10−1 Pa程度)まで効率的に排気できる汎用性の高いポンプです。

その堅牢な構造と比較的低コストであることから、多くの研究室や工場で利用されています。

高真空を達成するためには、まずRPで粗引きを行い、その後にTMPを稼働させるのが一般的な手順です。

オイルバックとは?なぜ発生するのか

ロータリーポンプはその構造上、内部に潤滑油(ポンプ油)が封入されています。この油は、ポンプの摺動部の潤滑、気密性の保持、そして排気されたガスをポンプ外部へ排出する役割を担っています。

オイルバックとは、このポンプ内部の油が、何らかの理由で真空システム(真空チャンバーや配管)側に逆流してしまう現象を指します。通常、ポンプの吸気口には油の逆流を防ぐための逆止弁などが組み込まれていますが、完全ではない場合や特定の状況下でオイルバックが発生することがあります。

オイルバックが引き起こす深刻なリスク

オイルバックは、真空プロセスにおいて以下のような深刻な問題を引き起こす可能性があります。

  • 真空チャンバーの汚染

最も直接的な影響です。高純度な薄膜形成や表面分析を行うクリーンな真空チャンバーが油で汚染されると、プロセスの再現性が失われたり、期待する材料特性が得られなくなったりします。

  • 製品不良

成膜プロセスであれば、油の付着により膜の密着性不良、電気特性の変化、パーティクルの発生など、製品の品質に致命的な影響を与えます。

  • TMPの汚染・損傷

ロータリーポンプをTMPのバックポンプとして使用している場合、オイルバックが発生すると、TMP内部が油で汚染されます。特にTMPは油に弱く、ベアリングやローターに油が付着すると性能低下や故障に繋がる可能性があります。

  • ダウンタイムの増加

オイルバックが発生した場合、チャンバーや配管、TMPなどの洗浄に多大な時間とコストがかかります。これにより、研究や生産プロセスが中断され、大幅なダウンタイムが発生します。

  • 安全性への懸念

腐食性ガスを扱うシステムでオイルバックが発生すると、油が腐食性ガスと反応し、ポンプ内部の劣化を早めたり、有害物質を発生させたりするリスクも考えられます。

これらのリスクを考慮すると、オイルバック対策は真空システム設計および運用において極めて重要な要素であることが分かります。

オイルバックの具体的な発生メカニズム

オイルバックは、主に以下のような状況で発生しやすくなります。

停電時のオイルバック

最も典型的なオイルバックの発生原因です。ロータリーポンプが運転中に停電が発生すると、ポンプ内部のメカニズムが停止し、吸気口から真空チャンバー側へと油が逆流しようとします。

これは、チャンバー内の真空度が高いほど(チャンバーとポンプの圧力差が大きいほど)逆流の勢いが強くなる傾向があります。

ポンプ停止時のオイルバック

手動または自動でポンプを停止する際、適切な手順を踏まないとオイルバックが発生するリスクがあります。

特に、真空チャンバーを大気開放する前にポンプを停止した場合、チャンバーとポンプの間に圧力差が生じ、油が逆流することがあります。ポンプ停止時に吸気口を閉じる機構が不完全な場合も同様です。

真空度低下時のオイルバック

システムへのリーク(ガス漏れ)などによりチャンバー内の真空度が急激に低下し、ポンプの到達真空度付近まで圧力が上昇した場合、ポンプの排気能力が追いつかなくなり、内部の油が吸引されやすくなることがあります。

特に、ポンプが不安定な状態で運転を続けている際に発生しやすいです。

オイルバック対策の重要性と一般的な方法

オイルバックによる深刻なリスクを避けるためには、適切な対策を講じることが不可欠です。

真空バルブによる隔離

最も確実で広く採用されているオイルバック対策は、ロータリーポンプの吸気側に自動開閉式の真空バルブ(アイソレーションバルブ)を設置することです。

  • 電磁駆動バルブ

停電時や電源OFF時に自動的に弁が閉じる「フェイルセーフ」機能を備えた電磁駆動バルブは、オイルバック対策として非常に有効です。ポンプの電源と連動させることで、ポンプ停止と同時に吸気口を閉鎖し、油の逆流を物理的に遮断します。

  • 空圧駆動バルブ

圧縮空気を利用して動作するバルブです。停電時や空圧供給停止時に閉じるように設定することで、同様の保護機能を持たせることができます。ただし、別途圧縮空気の供給が必要です。

その他の対策

  • 油の選択

低蒸気圧のポンプ油を使用することで、油の蒸発による真空汚染を低減できますが、オイルバックそのものを防ぐ効果は限定的です。

  • オイルミストトラップ

ポンプの排気側に設置し、排出される油蒸気を捕集する装置です。これは大気側への油の飛散を防ぐもので、真空チャンバー側へのオイルバック対策とは異なります。

  • 適切な運用手順

ポンプの起動・停止時に、チャンバーのベント(大気開放)操作と連動させてポンプを適切に停止させるなど、運用手順を徹底することも重要です。

菅製作所の電磁ロータリーポンプバルブがオイルバック問題を解決する理由

株式会社菅製作所は、長年の真空装置開発で培ったノウハウを活かし、ロータリーポンプ使用時におけるオイルバック問題を根本的に解決する独自の電磁ロータリーポンプバルブを提供しています。

このバルブは、特に研究開発用途において、クリーンな真空環境と高い信頼性を求めるお客様に最適なソリューションです。

ポンプの運転と連動した自動制御と確実なフェイルセーフ機能

菅製作所の電磁ロータリーポンプバルブは、油回転真空ポンプ(ロータリーポンプ)と電磁弁への入力ラインを並列配線するだけで、個別のバルブ制御が不要です。

  • 自動開閉機能

油回転真空ポンプの起動/停止に合わせ、真空力(差圧)を用いて自動でバルブが開/閉します。開閉用に圧縮空気を用いる必要がなく、差圧で動作するため、システムの簡素化にも貢献します。

  • フェイルセーフ機能による確実な保護

電力供給が途絶えた際に自動的に弁が閉じるフェイルセーフ機能を備えています。予期せぬ停電や操作ミスによりポンプが停止した場合でも、瞬時にバルブが閉じ、ポンプ油の真空チャンバーやTMPへの逆流を確実に防止します。これにより、お客様の貴重な真空システムとプロセスを汚染から守ります。

真空保持とポンプ側大気ベントを両立

このバルブは、排気ラインの開閉に加え、閉鎖時には油回転真空ポンプ側のみを大気ベントさせる機能を併せ持ちます。

  • 効率的なポンプ停止

ポンプ停止時にポンプ側を大気圧に戻すことで、ポンプ内部の負荷を軽減し、再起動をスムーズにします。

  • クリーンな真空環境の維持

真空チャンバー側の真空を保持しつつ、ポンプ側を安全に大気開放できるため、プロセスのクリーン度維持と効率的な運用に貢献します。

これらの独自の機能と構造により、菅製作所の電磁ロータリーポンプバルブは、お客様の真空システムにおけるオイルバックによる汚染リスクを大幅に低減し、安定したクリーンな真空環境の維持に貢献します。

まとめ

ロータリーポンプを使用する真空システムにおいて、「オイルバック」は常に潜在的なリスクとして存在し、真空チャンバーやTMPの汚染、製品不良、ダウンタイムの増加など、深刻な影響を及ぼす可能性があります。

この問題に対する最も確実な対策の一つが、RPの吸気側に設置する信頼性の高いアイソレーションバルブです。株式会社菅製作所が提供するポンプ運転と連動した自動制御、そしてフェイルセーフ機能を備えた電磁ロータリーポンプバルブは、オイルバックを確実に防止し、お客様の貴重な真空システムとプロセスを汚染から守ります。

お客様の研究開発におけるクリーンな真空環境の実現と安定稼働のために、真空機器の選定や運用にお悩みの際は、ぜひ株式会社菅製作所へお気軽にご相談ください。

長年の経験と確かな技術力で、最適なソリューションをご提案いたします。

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この記事を書いた人

株式会社菅製作所

北海道北斗市で、スパッタ装置やALD装置等の成膜装置や光放出電子顕微鏡などの真空装置、放電プラズマ焼結(SPS)による材料合成装置、漁船向け船舶用機器を製造・販売しています。
また、汎用マイコン・汎用メモリへの書込みサービスも行っています。

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