MFM(磁気力顕微鏡)は、SPM(走査型プローブ顕微鏡)の一種です。SPMについて知りたい方は以下の記事で解説しているので、あわせてご覧ください。
この記事では、MFMはどのような仕組みで試料を観測しているのか、わかりやすく解説していきます。
普段から原子に関わる仕事をしている「菅製作所」だからお伝えできる情報をお届けしますので、参考にしていただけると幸いです。
それでは、早速見ていきましょう。
目次
MFM(磁気力顕微鏡)とは磁気力勾配の分布を画像化できる顕微鏡
MFMは磁気力による勾配の分布を画像化できる顕微鏡の一つです。簡単に言い換えると、磁力があるものを見える化できる顕微鏡ですね。(引力・斥力を画像化できる)
非接触原子間力顕微鏡(NC-AFM)の一種であり、AFMで使用されるカンチレバーを用い、探針に磁性膜をコーティングしたものがMFMです。AFMの発展型であるため、大気中で測定可能、非接触・非破壊で行うことができる特徴を持ちます。
また、この磁性膜をコーティングする際、スパッタ成膜を利用します。スパッタ成膜について詳しくは以下の記事で解説しておりますので、ご覧ください。
では、MFMはどのような仕組みで試料を観察するのでしょうか?次の項目で解説します。
MFM(磁気力顕微鏡)の仕組み
MFMは大きく二つの測定を検出する顕微鏡です。一つはカンチレバーの動きを、もう一つは針と試料の間の磁気的相互作用を検出します。
最初に、表面形状を測定し、その動きを記録します。カンチレバーの動きをトレースしながら、次は磁器力による振れ幅を測定し、位相変化を出すことで磁気力の分布を把握する仕組みでMFMは画像を出力します。
カンチレバーの動きの計測については、AFMの仕組みと同様です。
MFM探針と、磁性体試料の間に作用する引力・斥力を画像化すると、MFM像と呼ばれる画像が出力できます。次の項目では実像サンプルを紹介しましょう。
MFM(磁気力顕微鏡)の実像サンプル
MFMの実像は、ハードディスクのデータ消去前、消去後などで見ることができます。
黒がN極、白がS極であり、4つ固まることで4ビットの磁気信号になります。消去前はデータがあるため、ビット信号として保存されており、消去後は無くなっている状態です。
実像サンプルについては以下のサイトで公開されていますので、ご覧ください。
MFM(磁気力顕微鏡)技術の応用
MFM技術の応用で、最も有名なのは「ハードディスク」です。先ほども紹介した通り、N極とS極を使用し、ビットとして記録するハードディスクはPC分野を中心に多く使用されました。最近ではSSDの普及により、活躍の場を譲りつつあります。
また、MFM自体は磁性細菌などのバイオテクノロジー分野の観測にも用いられています。
MFM(磁気力顕微鏡)の歴史
MFMは、1980年代に研究が開始。開発当初は、磁性チップの作成が難しく、研究の域を出ませんでした。しかし、フォトリソグラフィ技術と次成膜コート技術の誕生により、1990年代前半に実用となります。今現在でも、量子物性解明のためSPMの一つとして活躍し続けている顕微鏡です。
まとめ
今回はMFM(磁気力顕微鏡)についてお話ししました。最後にポイントを振り返りましょう。
- MFM(磁気力顕微鏡)は、磁気力勾配の分布を画像化できる顕微鏡
- AFM(原子間力顕微鏡)の探針に、磁気膜をスパッタ成膜することで磁力を感知できるようにする
- 仕組みとしては、1回目で形状を、2回目で磁力による動きを計測し、位相変化を出すことで磁気力の分布を画像化する
- ハードディスクなど記録メディアで多く使用されていた
- 今現在はバイオテクノロジー分野の観測や、量子物性解明のために活躍している
MFMはSPM(走査型プローブ顕微鏡)の一種であると冒頭にお話ししました。SPMについて詳しくは以下の記事で解説しておりますので、あわせてご覧ください。
参考サイト
磁気力顕微鏡(MFM:Magnetic Force Microscope) : 日立ハイテク
7-1 磁気力顕微鏡 (MFM) – 原子間力顕微鏡 (AFM) の仕組み | How AFM Works
磁気力顕微鏡の原理と応用
第107回「ナノテクを結集した磁気力顕微鏡」の巻
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsssj1980/17/1/17_1_8/_pdf
産総研:世界最高分解能の磁気力プローブ顕微鏡を開発