半導体は、現代の電子機器に欠かせない存在です。スマートフォン、パソコン、家電製品など、私たちの身の回りにある電子機器は、目に見えない小さな部品、半導体によって動いています。
その中でも、ディスクリート半導体は、電子回路の基礎を支える重要な役割を担っています。この記事では、ディスクリート半導体とは何か、その特徴や種類、そして私たちの生活における具体的な活用事例について解説します。
目次
ディスクリート半導体の特徴
世界の半導体市場(出荷額)の内訳のなかでも、もっとも出荷額が多いといわれる「ディスクリート半導体」(総務省しらべ)。
ディスクリート半導体(discrete semiconductor)とは、単一の半導体デバイスであり、それぞれが特定の機能を持つ電子部品です。トランジスタやダイオードなどが代表的な例で、電子回路の基礎を支える重要な役割を担っています。
主な特徴は以下の通りです。
- 単一機能: 各デバイスが一つの機能に特化しているため、回路設計がシンプルになります。
- 汎用性: 様々な電子機器に幅広く利用され、回路の基礎部品として不可欠です。
- カスタマイズ性: 必要な機能に合わせて、異なる種類のディスクリート半導体を組み合わせることで、多様な回路を構築できます。
ディスクリート半導体と他の半導体の違い
一般的な半導体は、複数のトランジスタやダイオードなどの半導体素子を一つの基板上に集積し、一つのパッケージにしたものです。このように、様々な機能を搭載した半導体は一般的にLSI(大規模集積回路)と呼ばれることも多いです。
一方、ディスクリート半導体は、先述したように、単一の半導体素子を個別にパッケージングしたものです。集積回路を構成する最小単位と言えるでしょう。ディスクリート半導体は、そのシンプルな構造ゆえに、回路設計の自由度が高く、特定の機能に特化した高性能なデバイスを設計することができます。
ディスクリート半導体の具体的な用途
ディスクリート半導体は、私たちの生活を支える様々な製品やシステムに欠かせない存在です。以下に、具体的な用途の例をいくつか挙げます。
①家電製品
- テレビ:液晶パネルのバックライト制御、音声出力回路など、テレビの様々な機能に利用されています。
- 冷蔵庫:温度センサー、圧縮機制御回路など、食品の鮮度を保つために、精密な温度管理を行うために活躍しています。
- エアコン:室温センサー、コンプレッサー制御回路など、快適な室温を保つために重要な役割を果たしています。
- 洗濯機:水位センサー、モーター制御回路など、洗濯の効率化に貢献しています。
②社会インフラ
- 交通信号機:信号の切り替えを制御する回路、車両検知センサーなど、スムーズな交通の流れを確保するために利用されています。
- 電力制御システム:発電所から家庭までの電力供給を安定させるために、電力変換回路や保護回路などに使用されています。
- 通信インフラ全般:通信機器の信号増幅や変調・復調など、高速かつ安定した通信を実現するためにディスクリート半導体が不可欠です。
③自動車
- エンジン制御:エンジンの燃焼効率を最適化し、排気ガスを低減するために利用されています。
- 安全システム:ABS(アンチロックブレーキシステム)、エアバッグ、衝突回避支援システムなど、安全運転を支援する様々な機能に活用されています。
- インフォテインメントシステム: カーナビゲーション、オーディオシステム、スマートフォンとの連携など、快適なドライブをサポートする機能を実現するために利用されています。
ディスクリート半導体の種類
ここでは、回路に使用可能な最も一般的なディスクリート半導体の種類と、それらが果たす役割について簡単に説明します。
①サイリスタ
サイリスタは2つの安定した状態を持つ半導体で、電流を流したり流さなかったりすることで 状態を変化させることができますが、一度変化させると、別の信号を受け取るまでその状態を維持します。日常的な用途のひとつは、調光スイッチです。
②MOSFET
MOSFETとは、Metal Oxide Semiconductor Field-Effect Transistor(金属酸化膜半導体電界効果トランジスタ)の略です。このタイプのトランジスタは、入力電圧があるという点ではバイポーラ・トランジスタに似ていますが、バイポーラトランジスタがやや大きな電圧を必要とするのに比べ、MOSFETトランジスタの入力電圧は非常に小さいです。MOSFETは一般的にスイッチやアンプとして使用されます。
③バイポーラトランジスタ
回路内のバイポーラトランジスタは、小さな信号電圧が印加されると大きな電圧を通過させ、スイッチとして使用することができます。
④ツェナーダイオード
ツェナーダイオードは、電流がある電圧(ツェナー電圧と呼ばれる)に達すると、通常とは逆方向に電流が流れるようにします。異なるツェナー電圧、または可変電圧設計で利用可能です。電力調整および回路の過負荷保護に有用です。
⑤ブリッジダイオード
ブリッジダイオードは、交流(AC)を直流(DC)に変換するために使用されるダイオードブリッジの一種です。交流のマイナス部分をプラスに変換することで、スムーズで安定した直流を作り出します。
ディスクリート半導体の需要が増大する理由
東芝デバイス&ストレージ株式会社の河野明弘氏によれば、ディスクリートの中で需要がますます増える分野として期待できるものの1つが、データセンターだといいます。
データセンターの設備には多くの電源が必要で、それを24時間365日稼働するために、省エネが大きな課題となっています。そこでディスクリート半導体が電力の高効率化の実現に貢献するというわけです。
もちろんそれだけではありません。身近な家電やIT機器だけでなく、これからさらなる普及が見込まれる電気自動車なども、ディスクリート半導体の需要を増大させています。実際、すでに電車や新幹線などの鉄道車両には、たくさんのディスクリートが組み込まれています。
まとめ
現代の電子機器の進化を支える不可欠な存在である、ディスクリート半導体。そのシンプルな構造と汎用性の高さから、電子回路の設計に幅広い自由度をもたらします。IoTやAIの進展、そして持続可能な社会の実現に向けた取り組みの中で、ディスクリート半導体はさらに重要な役割を担っていくことが期待されます。