「スパッタリングは専門用語が多すぎて難しい」
「結局どの装置を選べば良いのかわからない」
上記のようなお悩みは、スパッタ装置を検討する際によくある悩みだと思います。
そこで本記事ではスパッタ装置を製造するメーカー「菅製作所」が、スパッタリングについてわかりやすく解説します。
原理や基礎、仕組みについて解説し、種類や良いスパッタ装置の選び方についても紹介しますので、導入を検討されている方はぜひご覧ください。
目次
スパッタリングとは?原理や基礎
原子サイズの粒子のターゲット材料と、高エネルギー粒子を衝突させて、ターゲット材料の粒子を薄膜として推積させる方法です。
真空状態の中で特定のプロセスを経ることで基板表面に薄膜を作る技術で、半導体分野を始めとした多くの分野で活躍する成膜方法になります。
イメージとしては、砂場に石を投げて跳ね返った砂が服につくようなイメージです。
スパッタリング技術の種類
ここでは、スパッタリング技術の代表的な種類について解説します。
スパッタ方式 | 特徴 | 欠点 |
---|---|---|
二極スパッタ | 構造が簡単で、広い基板に均一な膜を作れる 高周波(RF)を用いれば絶縁物をスパッタリングできる | 放電に高い電圧が必要 スパッタ時の圧力(真空度)が高め |
マグネトロンスパッタ | 電場と磁場の直交するマグネトロン放電を利用した方法。 近年はほとんどこの方式 | 磁場が圴一でない 中心でプラズマが薄くなる ターゲットの削られる量にムラがでてきやすい |
ECRスパッタ | ECRプラズマを用いて、高真空において各種スパッタリングが可能。 ダメージが小さくなる。 | 装置が複雑 ターゲット面積を大きくできない |
スパッタリングプロセスのステップ
- 不活性ガス原子で満たした真空チャンバー内に基盤を配置する
- ターゲット(成膜材料)にマイナスの電圧を印加してグロー放電を発生させる
- 不活性ガスがターゲットに高速で衝突し、弾き飛ばされたターゲット粒子が基板に付着する
スパッタリング法は、薄膜材料で作ったターゲットと基盤(マイナスの電位)の間にプラズマを作り、プラズマ中のイオンをターゲットに衝突させます。
衝突のエネルギーを受けて、ターゲットの原子は空間に飛び出し、基板に薄膜として精製されるという方法です。
スパッタリングのメリットとデメリット
スパッタリングにはメリットとデメリットがあります。それぞれ見ていきましょう。
スパッタリングの5つのメリット
スパッタリング法には、5つのメリットがあります。
- 気温の基盤上に付着力が大きく、かつ構造が緻密な薄膜を形成できる
- 大きな面積を持つ基板上への均一な膜の作製に適している
- ターゲットと基板間の距離を短くできるため、真空チャンバーの容積を小さくできる
- 再現性および安定性に優れる
- ターゲットの寿命が長く、連続生産に適している
特に安定性に優れ、特性の良い薄膜を連続的に作製できるため、工業分野で多く用いられています。
スパッタリングの5つのデメリット
次に、スパッタリング法の5つのデメリットを見ていきましょう。
- コストが高い
- プロセスが複雑で、成膜に時間がかかる
- 材料によってはコーティングできない
- プラズマにより製品に影響が出る場合がある
- 凹凸がある対象物には向かない
この中でも特にネックになる点は、プロセスが複雑な点です。一般的なスパッタ装置では操作そのものが難しく、設定に手間取るケースが多々あります。
また、精密機械なためメンテナンスが必須となりますが、専門性が高く対応してくれる業者がいないと長い期間研究が止まることにも繋がりかねません。
スパッタリングの応用分野
ここでは、スパッタリングがどのような分野で使用されているかを見ていきましょう。
ガラスの保護・機能追加
ガラスの保護や機能を追加するためにもスパッタリングがよく使われます。例えば、以下のような内容です。
ターゲット | 得られる効果 |
---|---|
銀 | 断熱性能が上がる |
酸化チタン | 紫外線で有機物を分解する(セルフクリーニング) |
酸化チタン、二酸化ケイ素など | 光の反射を抑制する |
上記のような効果が付与されると、車や建物の利便性が上がります。目に見えない部分ですが、意外と身近なものでもスパッタの恩恵を受けているのです。
スマートフォンのディスプレイ
スマホやタブレットなど、タッチパネルのディスプレイには導電性かつ透明であることが求められます。その時にもスパッタリングが活躍し、インジウムスズ酸化物などをターゲットとして使用することで実現可能です。
抗菌機能の付与
TiO2などをターゲットにスパッタすることで、光触媒として抗菌作用を付与できます。具体的な使用例ですと家の外装や医療器具、冷蔵庫の野菜室などで使用されます。
光触媒について詳しくは以下の記事で解説しておりますので、関心をお持ちの方はぜひご覧ください。
スパッタリング装置の選定ガイド
スパッタリング装置を選ぶ際、何を持って「良い薄膜」なのかを知らなければいけません。ここでは、良い薄膜を見極めるポイントを解説します。
何を評価したいのか明確にする
まず、評価項目を決めます。性質ごとに分類すると以下の通りです。
- 構造の評価
- 機械的性質の評価
- 電気的磁気的性質の評価
- 光学的性質・化学的性質の評価
- 環境や生体への影響
など
評価する項目により、方法も異なります。例えば、構造の評価には光学顕微鏡や走査プローブ顕微鏡が必要などです。
薄膜の厚さや凹凸(表面粗さ)が目的に合うものになっているか
薄膜の厚さや凹凸が(表面粗さ)望んだ通りに精製されているかを確認することも重要です。
測定には、主に段差計を用いて測定します。段差計とは、試料表面の段差(膜厚)、粗さ、形状を高精度で測定可能な装置です。
触針式プロファイラとも呼ばれる装置で、光を通さない金属や半導体基板、電子部品の基板などを測可能なため、多くの場面で使用します。
薄膜は剥がれにくいか
薄膜の評価において、剥がれにくさは重要な指標です。特にスパッタリング法は剥がれにくいことが強みであるため、本当に付着力が高い装置なのかを確認する必要があります。
しかし、付着力の評価法については発展途上であり、ここで紹介するものはあくまで、今現在行われているものです。今後新たな方法が主流になる可能性もありますのでご注意ください。
評価方法 | やり方 | 利点 | 欠点 |
---|---|---|---|
テープ引き剥がし法 | 粘着テープを貼り、垂直に引っ張って剥がす方法 | 簡単にできる(市販のテープでOK) | 定量性に乏しい |
ピーリング試験 | 機械的に剥がす方法 | 剥離の強度を測定できる | 薄い薄膜では難しい |
引張試験、引き倒し試験 | 薄膜にアームをつけて垂直・並行に引っ張る方法 | 密着性の応力を評価できる | 剥離時に変形・破壊される |
スクラッチ試験 | 針で薄膜を引っ掻く方法 | 加工が不要で、密着膜も評価できる | 強度の解釈が複雑 |
押込み試験 | 固いピラミッド型の選択を押し込んで、界面での薄膜と基板の分離を起こす | 加工が不要で、せん断応力の評価ができる | 強度の解釈が複雑 |
カンチレバー剥離法 | 薄膜の剥離を界面での亀裂発生及び伝播として捉える方法 | 変形・破壊がフリー | 試料加工が必要 |
テスト成膜を依頼する
上記の評価内容・方法が決まったら、テスト成膜を依頼してそのスパッタ装置が本当にあなたの研究に役立つものであるかを見定めましょう。
菅製作所でもテスト成膜サービスを実施しています。導入するとなると非常に高額なスパッタ装置が必要になりますので、導入に失敗しないためにもぜひ一度テスト成膜をお試しの上、品質がご期待通りであれば導入をご検討いただければと存じます。
テスト成膜ご希望の方は、以下のページよりご連絡ください。
菅製作所のテスト成膜サービスを利用してみるまとめ
スパッタリングは、ターゲット材料の粒子を対象物に薄膜として推積させる方法です。
付着力が大きい点や平面に均一な膜を作れる、再現性に優れる、などのメリットがあります。反対に、コストが高い、プロセスが複雑などの点がデメリットです。
ガラスやスマホのディスプレイ、外壁・医療器具への抗菌機能の追加など、保護以外の目的でもスパッタリングは役立ちます。
良い装置を選ぶためには、何をメインにその薄膜を評価するかを決定した上でテスト成膜を申し込むことが重要です。
菅製作所では、この他にもスパッタリングに関する解説記事を多く掲載しています。専門用語を極力使わず、わかりやすく解説することを心がけておりますので、ぜひご覧ください。
参考サイト
https://plastics-japan.com/archives/2015
https://www.newglass.jp/mag/TITL/maghtml/107-pdf/+107-p024.pdf
https://www.pico-afm.com/comparison/thin-film.html
参考書籍
- はじめての薄膜作製技術
- 「薄膜」のキホン原子に迫る超微細・超高密度の世界
- よくわかる最新薄膜の基本と仕組