
スパッタリングは、半導体や電子部品、光学製品など、さまざまな分野で活用されている重要な薄膜形成技術です。少し難しそうに感じるかもしれませんが、仕組み自体は身近な現象に置き換えることで理解しやすくなります。
本記事では、スパッタリングの基本原理をはじめ、代表的な種類やそれぞれの特徴・弱点をわかりやすく解説します。
さらに、装置選定時に押さえておきたいポイントや、菅製作所が提供するテスト成膜サービスについても紹介します。スパッタリング技術への理解を深め、用途に合った最適な方法を選ぶための参考としてぜひご覧ください。
長年の経験と独自の技術で、大学や研究機関での導入実績も多数。
研究目的に応じたカスタマイズや、導入前のテスト成膜も可能です。
装置のご検討やその他ご相談は、ぜひ当社までお問い合わせください。
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スパッタリングとは?原理や基礎
スパッタリングは、半導体や電子部品など幅広い分野で使われている成膜技術です。
まずはスパッタリングの基本的な仕組みや特徴を理解し、どのように薄膜が形成されるのかを確認していきましょう。
スパッタリングとは

スパッタリングとは、真空中でターゲット材料にイオンを衝突させ、弾き出された粒子を基板へ付着させて薄膜を形成する技術です。「スパッタ」と呼ばれることもあります。
物理蒸着(PVD)の一種であり、液体を使わずに成膜するため「乾式めっき」や「ドライコーティング」とも呼ばれています。密着性や膜品質に優れ、半導体や電子部品、光学分野など幅広い用途で利用される手法です。
スパッタリングの原理
スパッタリングは、主に以下の流れで行われます。
- 不活性ガス原子で満たした真空チャンバー内に基盤を配置する
- ターゲット(成膜材料)にマイナスの電圧を印加してグロー放電を発生させる
- 不活性ガスがターゲットに高速で衝突し、弾き飛ばされたターゲット粒子が基板に付着する
このように、スパッタリングはプラズマ中のイオンエネルギーを利用して成膜を行う方法です。均一な膜を形成しやすく、金属や絶縁体など幅広い材料に対応できる点が特徴です。
▼スパッタリングの詳細は、動画でもご紹介しています。ぜひこちらもご覧ください。
▼自社材料で成膜できるか確認したい方へ
菅製作所では、装置導入前に成膜を確認できる「テスト成膜サービス」を行っておりま
す。どのような膜が成膜できるかお試しいただけますので、ぜひご活用ください。
テスト成膜サービスの詳細はこちらスパッタリングの代表的な成膜材料
スパッタリングは、高融点金属や合金、化合物など、幅広い種類の材料で成膜が可能であり、真空蒸着法では成膜が困難な材料にも対応できます。
スパッタリングの成膜材料の代表例としては、以下のものが挙げられます。
| 金属 | Cr(クロム)、Cu(銅)、Ti(チタン)、Ag(銀)、Pt(プラチナ)、Au(金)など。 |
| 合金 | Ni-Cr(ニッケル-クロム)、SUS(ステンレス)、Cu-Zn(銅-亜鉛)など。 |
| 酸化物 | ITO(酸化インジウムスズ)、SiO2(二酸化ケイ素)、TiO2(二酸化チタン)、Nb2O5(五酸化ニオブ)、ZnO(酸化亜鉛)など。 |
これらの材料は、ターゲットと呼ばれるプレート状の成膜材料として使用されます。
スパッタリングのメリットとデメリット

スパッタリングにおけるメリットとデメリットをそれぞれ見ていきましょう。
スパッタリングの5つのメリット
スパッタリング法の主なメリットは以下の5つです。
- 気温の基盤上に付着力が大きく、かつ構造が緻密な薄膜を形成できる
- 大きな面積を持つ基板上への均一な膜の作製に適している
- ターゲットと基板間の距離を短くできるため、真空チャンバーの容積を小さくできる
- 再現性および安定性に優れる
- ターゲットの寿命が長く、連続生産に適している
特に安定性に優れ、特性の良い薄膜を連続的に作製できるため、工業分野で多く用いられています。
スパッタリングの5つのデメリット
次に、スパッタリング法の5つのデメリットを見ていきましょう。
- コストが高い
- プロセスが複雑で、成膜に時間がかかる
- 材料によってはコーティングできない
- プラズマにより製品に影響が出る場合がある
- 凹凸がある対象物には向かない
この中でも特にネックになる点は、プロセスが複雑な点です。一般的なスパッタ装置では操作そのものが難しく、設定に手間取るケースが多々あります。
また、精密機械なためメンテナンスが必須となりますが、専門性が高く対応してくれる業者がいないと長い期間研究が止まることにも繋がりかねません。
スパッタリング技術の種類
スパッタリングにはさまざまな方式があり、それぞれに特徴と課題があります。方式別の違い比較表を以下にまとめました。
| 方式 | 特徴 | 向く材料 | 注意点 |
|---|---|---|---|
| ①2極スパッタリング法 | 構造がシンプルで基本的な方式 | 基本的な金属薄膜 | 成膜速度が遅く、基板が熱を持ちやすい |
| ②マグネトロンスパッタリング法 | 高速成膜・低ダメージ | 金属膜、工業用途全般 | ターゲット消耗に偏りが出やすい |
| ③DCスパッタリング | 成膜速度が速くコストも低め | 金属など導電性材料 | 絶縁体ターゲットには不向き |
| ④RFスパッタリング | 絶縁体も成膜可能 | SiO2、Al2O3など絶縁材料 | 装置が高価で調整が複雑 |
| ⑤反応性スパッタリング | 酸化膜・窒化膜を形成可能 | 酸化物、窒化物、化合物膜 | ガス制御が難しく成膜が不安定になりやすい |
| ⑥ECRスパッタリング | 高真空・高品質・低ダメージ | 精密デバイス、機能性薄膜 | 装置が非常に高価で複雑 |
ここでは代表的な6種類の方法について解説します。
①2極スパッタリング法
もっとも基本的なスパッタリング方式で、現在の多くの技術の基礎となっています。構造がシンプルなため導入しやすく、研究用途でも広く利用されています。
2極スパッタリング法の特徴
2極スパッタリング法は、基板を陽極、ターゲットを陰極として放電を行い、薄膜を形成する方式です。装置構造が比較的単純なため、初期導入しやすい点が特徴です。
基本原理がわかりやすく、スパッタリング技術の入門的な方式としても知られています。また、構造が複雑ではないため、メンテナンス性にも優れています。
2極スパッタリング法の弱点
この方式は安定したプラズマを維持するために多くのガスを必要とし、成膜速度が遅くなる傾向があります。
さらに、スパッタリング時に発生する二次電子が基板へ衝突することで、基板温度が上昇しやすい点も課題です。
熱に弱い材料ではダメージが発生する可能性があります。
また、比較的低真空で動作するため、不純物が膜へ混入しやすい点にも注意が必要です。
②マグネトロンスパッタリング法
マグネトロンスパッタリング法は、2極スパッタリング法の弱点を改善するために開発された方式です。
マグネトロンスパッタリング法の特徴
ターゲット付近に磁石を配置し、電子を磁場内に閉じ込めることで高密度プラズマを生成します。
これによりイオン衝突効率が高まり、成膜速度を大幅に向上できます。
また、電子が基板側へ飛びにくくなるため、基板温度の上昇を抑えやすい点もメリットです。少ないガス量でも安定した放電が可能で、ターゲット利用効率にも優れています。
マグネトロンスパッタリング法の弱点
電子が特定の領域に集中するため、ターゲット表面の一部だけが集中的に消耗する「レーストラック現象」が発生しやすくなります。
その結果、ターゲット全体を均一に使い切れない場合があります。
また、磁石や磁場制御機構が必要になるため、2極スパッタリング法と比べて装置構造が複雑になり、導入コストも高くなりやすいです。
③DCスパッタリング
DCスパッタリングは、直流電源を使用して成膜を行う方式です。
DCスパッタリングの特徴
DCスパッタリングは金属などの導電性ターゲットの成膜に適しており、RFスパッタリングと比べて成膜速度が速く、装置コストも抑えられます。ターゲットの組成比をほぼそのまま薄膜に転写できるため、合金や化合物の成膜にも向いています。
DCスパッタリングの弱点
ターゲットが絶縁体の場合、プラスの電荷(イオン)がターゲット表面に蓄積する「チャージアップ」が起き、放電が停止してしまいます。
そのため、絶縁性材料への適用はできません。
また、高エネルギーのイオンが基板に入射するため基板温度が上昇しやすく、所望の膜特性を得るには電力・圧力・ガス組成などの精密な調整が必要です。
④RFスパッタリング
RFスパッタリングは、高周波交流電源を用いるスパッタリング法です。
RFスパッタリングの特徴
RFスパッタリング最大の特徴は、絶縁性ターゲットにも対応できる点です。
交流電圧を用いることでチャージアップを防ぎ、SiO2やAl2O3などの成膜が可能になります。
イオンアシスト効果によって緻密で高品質な薄膜を形成しやすい点も特徴です。
半導体製造では絶縁膜形成に欠かせない技術として重要な役割を担っています。
RFスパッタリングの弱点
RFスパッタリングはDC方式より成膜速度が遅くなる傾向があります。
また、RF電源に加えてマッチングユニットが必要になるため、装置価格が高くなります。
さらにマッチング調整などの操作が必要となるため、運用には専門知識が求められるでしょう。
ターゲットと基板の距離が短い場合には、プラズマによる基板ダメージが発生する可能性もあります。
⑤反応性スパッタリング
反応性スパッタリングは、スパッタリングガスに反応性ガスを混合して成膜を行う方法です。
反応性スパッタリングの特徴
金属ターゲットと反応性ガスを組み合わせることで、酸化物や窒化物などの化合物膜を形成できます。
例えば、酸素ガスを用いれば酸化膜、窒素ガスを用いれば窒化膜の形成が可能です。
また、ガス流量や分圧を調整することで、膜の硬度や光学特性などを細かく制御できます。比較的低温で成膜できるため、熱に弱い基板にも対応しやすく、大面積成膜にも適しています。
反応性スパッタリングの弱点
反応性ガスの影響でターゲット表面に化合物層が形成されると、成膜速度が急激に変化する「ヒステリシス現象」が発生する場合があります。
そのため、ガス流量や分圧の精密な制御が必要です。また、ターゲット表面が完全に化合物化すると「ターゲット被毒」が起こり、スパッタ効率が大きく低下することがあります。
通常のスパッタ法より成膜速度が落ちやすい点も課題です。
⑥ECRスパッタリング (ECRプラズマスパッタリング)
ECRスパッタリングは、電子サイクロトロン共鳴(ECR)を利用して高密度プラズマを生成する高度な成膜技術です。
ECRスパッタリングの特徴
ECRスパッタリングは高真空環境で成膜できるため、不純物混入を大幅に抑えられます。
リモートプラズマ方式を採用しているため、基板へのダメージが少ない点も特徴です。
熱に弱い基板や精密デバイスの製造にも適しています。
さらに、高密度プラズマによって緻密で均一な膜を形成しやすく、導電性・絶縁性を問わず幅広いターゲット材料に対応可能です。
ECRスパッタリングの弱点
マイクロ波源や磁場制御機構などが必要になるため、装置構造は非常に複雑です。
その結果、導入コストも高くなります。
また、安定した成膜を維持するにはターゲット状態を適切に管理する必要があり、高度な運用ノウハウが求められます。
▼スパッタリング方式の選定でお悩みの方は、以下のフォームよりお気軽にご相談ください。
ご相談はこちらスパッタリングの応用分野
ここでは、スパッタリングがどのような分野で使用されているかを見ていきましょう。
ガラスの保護・機能追加
ガラスの保護や機能を追加するためにもスパッタリングがよく使われます。例えば、以下のような内容です。
| ターゲット | 得られる効果 |
| 銀 | 断熱性能が上がる |
| 酸化チタン | 紫外線で有機物を分解する(セルフクリーニング) |
| 酸化チタン、二酸化ケイ素など | 光の反射を抑制する |
上記のような効果が付与されると、車や建物の利便性が上がります。目に見えない部分ですが、意外と身近なものでもスパッタの恩恵を受けているのです。
スマートフォンのディスプレイ
スマホやタブレットなど、タッチパネルのディスプレイには導電性かつ透明であることが求められます。その時にもスパッタリングが活躍し、インジウムスズ酸化物などをターゲットとして使用することで実現可能です。
抗菌機能の付与
TiO2などをターゲットにスパッタすることで、光触媒として抗菌作用を付与できます。具体的な使用例ですと家の外装や医療器具、冷蔵庫の野菜室などで使用されます。
光触媒について詳しくは以下の記事で解説しておりますので、関心をお持ちの方はぜひご覧ください。
スパッタリング装置を選ぶ際のポイント
スパッタリング装置を選ぶ際、何を持って「良い薄膜」なのかを知らなければいけません。ここでは、良い薄膜を見極めるポイントを解説します。
何を見たいのか明確にする
まず、評価項目を決めます。性質ごとに分類すると以下の通りです。
- 構造の評価
- 機械的性質の評価
- 電気的磁気的性質の評価
- 光学的性質・化学的性質の評価
- 環境や生体への影響
など
評価する項目により、方法も異なります。例えば、構造の評価には光学顕微鏡や走査プローブ顕微鏡が必要などです。
薄膜の厚さや凹凸が目的に合うものになっているか
薄膜の厚さや凹凸が望んだ通りに精製されているかを確認することも重要です。
そこで必要になるのがAFM(原子間力顕微鏡)などの特殊な顕微鏡です。これは、目に見えないほど細かな針を使い、試料の凹凸や厚さを判別できます。
AFMについて詳しくは以下の記事で解説しておりますので、あわせてご覧ください。
さらに、厚さのみに限って言えば干渉顕微鏡などの高額的な手段でも可能です。
薄膜は剥がれにくいか
薄膜の評価において、剥がれにくさは重要な指標です。特にスパッタリング法は剥がれにくいことが強みであるため、本当に付着力が高い装置なのかを確認する必要があります。
しかし、付着力の評価法については発展途上であり、ここで紹介するものはあくまで今現在行われているものです。今後新たな方法が主流になる可能性もありますのでご注意ください。
| 評価方法 | やり方 | 利点 | 欠点 |
|---|---|---|---|
| テープ引き剥がし法 | 粘着テープを貼り、垂直に引っ張って剥がす方法 | 簡単にできる(市販のテープでOK) | 定量性に乏しい |
| ピーリング試験 | 機械的に剥がす方法 | 剥離の強度を測定できる | 薄い薄膜では難しい |
| 引張試験、引き倒し試験 | 薄膜にアームをつけて垂直・並行に引っ張る方法 | 密着性の応力を評価できる | 剥離時に変形・破壊される |
| スクラッチ試験 | 針で薄膜を引っ掻く方法 | 加工が不要で、密着膜も評価できる | 強度の解釈が複雑 |
| 押込み試験 | 固いピラミッド型の選択を押し込んで、界面での薄膜と基板の分離を起こす | 加工が不要で、せん断応力の評価ができる | 強度の解釈が複雑 |
| カンチレバー剥離法 | 薄膜の剥離を界面での亀裂発生及び伝播として捉える方法 | 変形・破壊がフリー | 試料加工が必要 |
テスト成膜を依頼する
上記の評価内容・方法が決まったら、テスト成膜を依頼してそのスパッタ装置が本当にあなたの研究に役立つものであるかを見定めましょう。
菅製作所でもテスト成膜サービスを実施しています。導入するとなると非常に高額なスパッタ装置が必要になりますので、導入に失敗しないためにもぜひ一度テスト成膜をお試しの上、品質がご期待通りであれば導入をご検討いただければと存じます。
テスト成膜ご希望の方は、以下のページよりご連絡ください。
菅製作所にテスト成膜を申し込んでみるまとめ
スパッタリングは、ターゲット材料の粒子を対象物に薄膜として推積させる方法です。
付着力が大きい点や平面に均一な膜を作れる、再現性に優れる、などのメリットがあります。反対に、コストが高い、プロセスが複雑などの点がデメリットです。
ガラスやスマホのディスプレイ、外壁・医療器具への抗菌機能の追加など、保護以外の目的でもスパッタリングは役立ちます。
良い装置を選ぶためには、何をメインにその薄膜を評価するかを決定した上でテスト成膜を申し込むことが重要です。
菅製作所では、この他にもスパッタリングに関する解説記事を多く掲載しています。専門用語を極力使わず、わかりやすく解説することを心がけておりますので、ぜひご覧ください。
参考サイト













