「触媒ってたまに聞くけど、実際何に使われているかわからない」
化学の授業でもよく耳にする触媒。化学式などで示すとやや複雑になりますが、役割はシンプルです。
この記事では、普段から元素に関わる「菅製作所」が触媒についてわかりやすく解説したのち、身近な使用例も紹介させていただきます。
ガソリン車や冷蔵庫など、身近な所でも触媒は使われているので、化学の世界を一緒に見ていきましょう。
目次
触媒とは化学反応を手助けする物質
触媒は、特定の化学反応の反応速度を変化させる物質です。
化学反応が起こるためには、反応物質が十分なエネルギーを得て、不安定な状態になる必要があります。
この必要なエネルギーを「活性化エネルギー」と呼びます。
触媒は、反応物質と相互作用することで、活性化エネルギーを下げ、反応を促進させます。このとき、触媒自身は反応の前後で変化しません。
ところで私たちの身の回りでは、触媒反応がひっそりと働いています。
例えば、ご飯を食べたときに唾液に含まれるアミラーゼがデンプンを分解したり、胃液のペプシンがタンパク質を分解したりするのも、触媒反応の一種です。
触媒の例
実際に触媒がどのように作用するのか、例をみてみましょう。
水素と酸素が反応して水が生成する反応(H₂ + 1/2O₂ → H₂O)は、エネルギー的に非常に安定な状態への変化であり、自然に起こりやすい反応です。
しかし、水素と酸素の混合ガスを単に容器に入れて加熱するだけでは、この反応はほとんど進行しません。
これは、反応を開始させるために必要なエネルギー(活性化エネルギー)が高いためです。
触媒は、この活性化エネルギーを下げることで、反応を加速させる物質です。例えば、水素と酸素の混合ガスに少量の銅(Cu)を加えて加熱すると、反応は速やかに進行し、水が生成されます。
このとき、銅自身は反応の前後で変化せず、何度も繰り返し反応を促進することができます。
生体触媒
私たちの体は、米や麦などの炭水化物、肉や魚などのタンパク質、そして脂肪といった栄養素をエネルギー源としています。
実はこれらの栄養素は、そのままでは体内に吸収することができません。
そこで、体の中には消化酵素と呼ばれる特別なタンパク質が存在し、食べ物をより小さな分子に分解する働きをしています。
例えば、炭水化物はブドウ糖に、タンパク質はアミノ酸に分解されます。
酵素は、化学反応を速める触媒の一種です。酵素は、生物が作り出す触媒であるため、生体触媒と呼ばれています。
酵素がなければ、私たちの体は、食べたものを十分に消化吸収することができず、生命活動を維持することが難しくなります。
触媒には二つの種類がある
触媒には「均一系触媒」と「不均一系触媒」の二つの種類があります。それぞれ見ていきましょう。
均一系触媒(水溶液中のイオン)
反応物の中に均一に混ざる触媒であり、反応をコントロールしやすいことが特徴です。
溶液の中に触媒が混ざってしまうので、反応後の生成物から触媒を取り除きにくいという難点もあります。
使用場面としては、有機合成反応に使うことが多い触媒です。
不均一系触媒(固体)
不均一系触媒も、反応物に混ざってしまいますが、固体であるため分離しやすい特徴を持ちます。分離しやすいということは、すぐに再利用できるということ。現場で重宝する触媒ですね。
難点としては、反応をコントロールしにくい点です。
不均一系触媒は自動車の排気ガスの浄化や石油の生産過程などで使用されます。
触媒に必要な要素は3つ
化学反応を効率的に進めるためには、触媒に高活性・高選択性・高耐久性の3つの要素が求められます。
高活性
触媒は、化学反応に必要なエネルギーを大幅に下げることで、反応を加速させます。活性の高い触媒は、少量で済み、低温での反応も可能にするため、エネルギー効率が良く、反応の制御も容易になります。
高選択性
目的とする物質だけを効率的に生成するためには、特定の反応だけを促進する選択性の高い触媒が必要です。これにより、無駄な副生成物を減らし、資源の有効活用に繋がります。
高耐久性
触媒は、長期間にわたってその機能を維持することが重要です。耐久性の低い触媒は、頻繁な交換が必要となり、結果的にコストが高くなります。また、触媒物質自体が高価な場合、耐久性は経済的な観点からも重要な要素となります。
触媒の社会での活用例
触媒は、社会では「プラチナ触媒」「光触媒」「自動車触媒」などの形で使われています。
ここでは実際の活用例を見ていきましょう。意外と身近にあることがお分かりいただけると思います。
自動車への活用(排気ガスの浄化)
ガソリン車では、排気ガスを浄化するために触媒が使用されており、自動車触媒(三元触媒)と呼ばれます。
排ガスの中に含まれる有毒ガスを、触媒反応を用いて浄化する方法であり、具体的なプロセスは以下の通りです。
- HC(炭化水素)→酸化→H2O + CO2(水と二酸化炭素)
- CO(一酸化炭素)→酸化→CO2(二酸化炭素)
- NOx(窒素酸化物)→還元→N2 + O2(窒素、酸素)
これらのプロセスにはプラチナ、パラジウム、ロジウムの触媒が使用されています。詳しい内容については以下の記事で解説しているため、合わせてご覧ください。
光触媒空気清浄機
空気清浄機には光触媒が使用されているものがあります。「光触媒フィルター」を使用した空気清浄機は、有害物質や悪臭成分を化学反応で分解し、キレイな空気として吐き出します。
ショッピングセンターやスポーツセンター、旅館などで使用されているなど、近年徐々に人気を高めている光触媒空気清浄機です。
光触媒について詳しくは以下の記事で解説しておりますので、あわせてご覧ください。
ポリ袋を作る過程
スーパーなどのレジ袋など、ポリエチレンでできた袋(通称ポリ袋)を作る際にも、触媒が使用されています。
原油を加熱処理し出来上がった「ナフサ」を熱分解し、「エチレン」を取り出し触媒と混ぜて高温・高圧化で化学反応させることにより「ポリエチレン」を作り出します。
プラスチックとポリマーについては以下の記事で解説しているので、興味をお持ちの方はぜひご覧ください。
冷蔵庫(高鮮度保存)
一部の冷蔵庫(日立製のものなど)にも触媒が使用されています。以前までは光触媒を使用していましたが、現在ではプラチナ触媒を使用し、エチレンガスと臭い成分を分解、炭酸ガスと分子にし、野菜を眠らせるように保存できます。
この高鮮度保存によって、水分を閉じ込め乾燥を抑えるため、時間が経った野菜でも美味しく食べられるというわけです。
プラチナ触媒については以下の記事で解説していますので、ご覧ください。
まとめ
今回は「触媒」について解説させていただきました。最後にポイントを振り返りましょう。
- 触媒とは化学反応を手助けする物質
- 触媒には「均一系触媒」と「不均一系触媒」の2種類がある
- 触媒は「ガソリン車の排気ガスの浄化」「ポリ袋を作る過程」「一部の冷蔵庫」などで使用されている
参考サイト
触媒とはなに?触媒についてまとめて解説
触媒 高校化学 均一系触媒 不均一系触媒 エンジョイケミストリー 123202
業界初! “プラチナ触媒”で食品の鮮度を保つ冷凍冷蔵庫「新 真空チルド」とは? – 価格.comマガジン
ポリエチレンとは? | 日進化学株式会社