PVDコーティング(物理気相成長法)とは?仕組みや種類、身近に使われているものを製作会社が解説

「PVDコーティングの仕組みはいまいちわからない、専門用語が多すぎて何がなんだか…」

この記事は、このような悩みを抱える方向けの記事です。

今回は、PVDコーティングをするための装置を作成している菅製作所が、PVDコーティングについて噛み砕いて解説します。

身近な使用例についても解説していますので、イメージを掴んでもらえることと思います。

PVDコーティング(物理気相成長法)とは、物理的に基板に薄膜をつける方法

PVDコーティングとは、物理的に基板に薄い膜をつける方法の一種で、ドライコーティングと呼ばれる手法の一つになります。

PVDは「Physical Vapor Deposition」の略で、物理気相成長法とも呼ばれます。PVDコーティングはPVD法という手段でコーティングしている、というわけです。

PVDコーティングは、金属や絶縁体、半導体など幅広い範囲で使用されます。基本的には、圧力が低い高真空の中で物質を原子・分子レベルにし(気相)、金属原子同士をぶつけ皮膜形成をすることから、耐久性や強度を上げられることが特徴。

また、コーティングする材料や処理条件を変えることで耐摩耗性を高くする、耐熱性を高くするなど性能や特性を付与できることも特徴の一つです。

物理的な成膜法以外には化学反応を利用した「CVD 化学気相成長法」があります。詳しくは以下の記事で解説しておりますのでご覧ください。

PVD(物理気相成長法)には、メリットとデメリットがあります。次の項目で見ていきましょう。

PVDコーティングのメリット・デメリット

PVDコーティングにはメリットとデメリットがあります。それぞれ見ていきましょう。

メリット:高い密着性と硬さを得られる

PVDコーティングの最大のメリットは高い密着性と硬さを得られることです。これにより、ドリルや飛行機のエンジン部分など、安定した動作かつ頑丈さが求められる箇所にコーティングを施し、長く使い続けることができます。

デメリット:形状変更や金型修正が大変

メリットの裏返しになりますが、高い密着性と硬さは加工を困難にします。一度試しに作ったけれど、ちょっと修正したい、ということが難しいため、最初に理想系を固めておく必要があります。

PVDコーティングには多くの種類があります。次の項目で一例を見ていきましょう。

PVDコーティングの種類

PVDコーティングは総称で、その中には以下のような種類があります。

  1. スパッタリング
  2. 真空蒸着

それぞれの種類を見ていきましょう。

1.スパッタリング

スパッタリングは、主にアルゴン元素を対象にぶつけて、衝突の力によってターゲットから剥がれ落ちた元素を基板にコーティングする方法です。

基板に衝突する材料の衝突エネルギーが強いため、付着力が強いことが特徴で、ハードディスクや磁気ヘッド、タッチパネルなどに使用されます。

2.真空蒸着

真空蒸着は、その名の通り真空下で薄膜にしたい材料を加熱・蒸発させることで基板に薄膜を作る方法です。

原理としては、カップ麺の蓋の裏に水蒸気がついているのと似ています。

スパッタリングよりも分子のサイズが小さいため、より多くの物質に薄膜を形成でき、磁気テープ、半導体素子、太陽電池などに用いられる方法です。

真空蒸着について詳しくは以下の記事で解説していますので、あわせてご覧ください。

このように、PVDコーティングにはいくつか種類があります。では、具体的な活用用を見ていきましょう。

PVDコーティングの活用用途

では、実際にPVDコーティングはどのような場面で使われているかを見ていきましょう。

半導体の電極作成

半導体への製造過程、PVDコーティングは使われます。主に電極作成目的で先ほど紹介したスパッタリングや真空蒸発という方法で成膜するケースが多いです。

電極は半導体デバイスが動作するために必要不可欠な部分であるため、PVDコーティングの中でも近年特に活用頻度が高い方法になります。

菅製作所のSSP1000でも多数の実績があり、比較的成膜しやすいためテスト成膜などを希望の方はお問い合わせください。

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ITO透明導電膜の成膜

PVDコーティングでは、ITO透明導電膜を成膜できます。ITO透明導電膜とは、ガラスの透明性を活かしたままガラス表面に電気を通せる膜のことです。

具体的には、酸化インジウムと酸化スズの混合物であるITOを成膜することで、可視域を透過しながら、導電性が得られます。

このITO透明導電膜はスマートフォンのタッチセンサーとディスプレイに必要不可欠なもので、タッチディスプレイの多くにこの技術が使われています。

菅製作所のPVD装置「SSP1000」

菅製作所のSSP1000は、スパッタ成膜が可能なエントリーモデルとして販売しています。操作をなるべく簡単に、初心者の方でも扱いやすいことを目指して作成したモデルです。

例えば、自動真空排気システムを内蔵しており、1ボタンで真空状態を作り出せる、排気系やRF電源の誤動作を防止するため、インターロック機能をつけているなど。

詳しくは以下の記事でも解説しています。具体的な使用法やスペックについても紹介しているため、ぜひご覧ください。

※アークイオンプレーティングには対応しておりませんのでご注意ください

まとめ

今回はPVDコーティングについて解説しました。最後にポイントを振り返りましょう。

  • PVDコーティングは、物理的に基板に薄膜をつける方法の一種
  • 代表的な成膜法に「スパッタリング」「真空蒸着」「アークイオンプレーティング」などがある
  • PVDコーティングのメリットは「高い密着性と硬さを得られる」こと
  • PVDコーティングのデメリットは「形状変更や金型修正が大変」なこと
  • PVDコーティングは「半導体の電極作成」や「透明導電膜の作製」に使用されている

PVDコーティング以外の成膜の種類については、以下の記事で解説しています。あわせてご覧ください。

菅製作所では、スパッタ装置やALD装置、蒸着装置など数多くの装置を製作しております。カスタマイズやメンテナンスについての相談も受け付けておりますので、お気軽にお問い合わせください。

参考サイト

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この記事を書いた人

株式会社菅製作所

北海道北斗市で、スパッタ装置やALD装置等の成膜装置や光放出電子顕微鏡などの真空装置、放電プラズマ焼結(SPS)による材料合成装置、漁船向け船舶用機器を製造・販売しています。
また、汎用マイコン・汎用メモリへの書込みサービスも行っています。

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