絶縁膜はその名の通り電気的に絶縁するための膜です。しかし、普段耳にすることがない分イメージがつきにくいものだと思います。
そこで本記事では、絶縁膜についてわかりやすく解説します。特性や成膜方法、代表的な種類と、成膜可能な装置も紹介しますので、薄膜について関心をお持ちの方はぜひご覧ください。
目次
絶縁膜とは?
絶縁膜は、主にゲート絶縁膜の意味合いで使われることが多い言葉です。ゲート絶縁膜は電極と基板の間を電気的に絶縁するための層のことです。シリコン酸化膜や、シリコン窒化膜を薄膜として成膜することで、絶縁膜として機能させます。
金属、酸化膜、半導体の3層構造になったものはMOSと呼ばれ、トランジスタに使用されます。トランジスタについては以下の記事で解説しておりますので、詳しい内容を知りたい方はぜひご覧ください。
また、ゲート絶縁膜には、以下の4つの性質が望まれます。
- 膜中に欠陥・不純物が少ない
- 絶縁破壊耐圧が高い
- 界面準位密度が少ない
- 固定電荷密度が少ない
など
絶縁膜の成膜方法
絶縁膜の成膜方法には「ALD法」「スパッタリング法」「CVD法」などの方法があります。
ALD法(原子層堆積)
ALD法は主に2種類の前駆体を使用し、化学反応を利用して膜を積み重ねていく方法です。まず、表面に1つ目の前駆体を付着させ、次に2つ目の前駆体を重ねます。これらの反応を繰り返し一層ずつ積み重ねていくイメージです。
密着力が高く、凹凸に対しても有効で小さい穴や突起が多い製品でも薄膜を形成できます。また、厚みの調整も原子1個分のレベルまで可能であり、絶縁膜としてはAl2O3(アルミナ)を緻密に成膜可能です。
スパッタリング法
スパッタリングは、放電によるプラズマ中にできたイオン(通常Ar+イオン)を成膜材料の板(ターゲット)にぶつけて材料をはね飛ばし、薄膜を形成する手法です。
シリコンウエハーをターゲットとし、窒化物や酸化物を材料として選択すると、シリコン窒化膜、シリコン酸化膜といった絶縁膜を成膜可能になります。
CVD法
CVD法は化学的気相成長の略で、その名の通り化学反応を用いて成膜する方法です。気体に窒素や酸素を含んだガスを選択し、シリコンウエハーに対し反応させることでシリコン窒化膜、シリコン酸化膜を成膜できます。
機械的強度や吸湿性などの膜質面においては、酸化膜が優れた特性を示します。
ゲート絶縁膜の種類
ゲート絶縁膜の代表的な種類に「High-k材料」と「Low-k材料」を用いたものがあります。それぞれ見ていきましょう。
High-k材料
High-k材料は高誘電体であり、主にMOSトランジスタに使われる材料です。ゲート酸化膜に使う場合と、メモリーのキャパシタ容量を上げるために使う場合があります。
従来のシリコン酸化物に比べ高い誘電率を持っており、高速・高性能な半導体デバイスを作るために必要不可欠な材料でもあります。
近年では、MOSトランジスタ以外にもDRAMやフラッシュメモリ、高速プロセッサなどに使用されている材料です。
Low-k材料
Low-k材料は低誘電率であり、多層配線間における層間絶縁膜の奇生容量を下げ、デバイスを高速化させるために用いられます。
集積回路の内部では、金属配線が何層にも張り巡らされています。集積回路の小型化に伴い、配線同士の距離が近くなり、配線間の電気容量が大きくなりました。
これにより、配線を伝わる信号が遅くなる現象が起きます。信号遅延の問題を解決するために、誘電率の低いLow-k材料が用いられるということです。
絶縁膜に関する最新の技術動向
2000年代に入り、絶縁膜は飛躍的に進化を遂げました。
数ナノメートルまで薄くなったゲート絶縁膜は、量子レベルでの電流の漏れ(リーク電流)を引き起こします。ゲート絶縁膜が薄くなるにつれ、リーク電流の影響は大きくなり、大きな課題となっていました。
しかし、この問題も、High-k材料を用いた絶縁膜を作ることで解決し、現在では安定した超小型のゲート絶縁膜を実現しています。
絶縁膜を加工可能な装置
ここでは、絶縁膜を成膜するための装置を紹介します。「ALD法」「スパッタリング法」それぞれに対応した装置を紹介していますので、ご覧ください。
ALD装置(ALD法):SAL1000
エントリーモデルの卓上型ALD装置であり、大人二人で簡単に移動が可能なモデルです。シンプルかつ簡単な操作が特徴で、基本的な操作は上部ハッチの開閉、基盤ホルダーへの設置とスイッチのみになります。
タッチパネル部分には成膜時の状況が表示されるため、確認しながらの成膜が可能です。また、オプションでの追加にはなりますが基板回転機構を取り付けることもでき、基礎から応用まで様々な実験にご利用いただけます。
詳細なスペックなどは以下のページで公開しておりますので、ぜひご覧ください。
スパッタ装置(スパッタリング法):SSP1000
SSP1000は卓上型RFスパッタのエントリーモデルです。成膜方向を変更可能なため、成膜する製品ごとに効率の良い成膜を可能にしています。
操作についても簡単さを追求し、真空引きについては開始・停止ともにボタン1つで操作が可能です。複雑なプロセスの多くを自動化することで、機械操作に慣れていない方でもご使用いただけます。
詳細なスペックなどは以下のページで公開しておりますので、ぜひご覧ください。
まとめ
絶縁膜は、電極と基板の間を電気的に絶縁するための層です。シリコン酸化膜やシリコン窒化膜を薄膜として成膜し、機能させます。
主にMOSトランジスタに多く使用されますが、近年ではHigk-k材料、Low-k材料によりDRAM、フラッシュメモリ、配線などにも使用されます。
部品の小型化に伴い、リーク電流が問題になっていましたが、High-k材料を用いた絶縁膜を使用することで高い安定性を実現しました。
菅製作所では、この他にも薄膜をはじめとした、様々なテクノロジーの情報を公開しています。目に見えないけれど身近にある、毎日使っているものもありますので、ぜひご覧ください。
参考サイト
https://e-words.jp/w/High-k.html
https://e-materials.net/outlook/2005HTML/2005cap/outlook2005-chap04-04.pdf
https://terakoyamiho.wordpress.com/
https://xtech.nikkei.com/dm/article/WORD/20060127/112758/