ITO成膜とは?特徴・成膜方法・選び方をわかりやすく解説

ITO成膜とは?特徴・成膜方法・選び方をわかりやすく解説

私たちが毎日手にするスマートフォンやタブレットの画面には、目に見えないほど薄い「透明なのに電気を通す膜」が使われています。この膜を作る技術がITO成膜です。

ITO成膜はディスプレイやタッチパネル、太陽電池、防曇ヒーターなど幅広い製品を支える基盤技術ですが、成膜方法が複数あり、それぞれの違いが分かりにくいという声もよく耳にします。

この記事では、ITOという材料の基本性質から、代表的な成膜方法の違い、基材に応じた選び方までを分かりやすく解説します。

ITO成膜とは

ITO(酸化インジウムスズ)は、酸化インジウムにスズを添加した材料です。導電性・透明性・パターニング加工性に優れることから、フラットパネルディスプレイ用の透明電極として急速に普及しました。粉末の状態では黄色〜灰色をしていますが、薄膜にするとほぼ無色透明になるという性質を持っています。

ITO成膜とは、このITOをガラスやフィルムなどの基材の表面に、薄膜として形成する技術のことです。広いバンドギャップを持つ透明な半導体材料に適切な元素を添加することで、透明でありながら電気を通す膜にできるという原理が使われています。

ITO膜が持つ特徴は大きく2つあります。

  • 高い透明性:可視光をほとんど吸収せず透過するため、見た目には膜が存在しないように見えます。
  • 優れた導電性:酸化インジウム系の材料の中でも、スズを添加したITO膜は特に低抵抗化しやすく、パターニング性にも優れているのが特徴です。

ITO成膜が使われる主な用途

ITO成膜は、身の回りのさまざまな製品に使われています。

ディスプレイ・タッチパネルの透明電極

液晶や有機ELのディスプレイでは、画面が見えるように透明でありながら電気を通す電極が必要とされ、ITOがその役割を担っています。特に静電容量式タッチパネルでは、ITOが透明な導電層としてタッチした箇所を電気的に検出する役割を果たしており、画面の美観を損なわずに機能を持たせられる点が評価されています。スマートフォンの高精細ディスプレイやタッチセンサー機能に欠かせない存在です。 

太陽電池の透明電極 

酸化スズ系の透明導電材料は化学的な安定性・耐久性の高さから、アモルファスシリコン太陽電池の透明電極にも用いられており、ITOについても次世代太陽電池向けの透明電極用途で採用が進んでいます。

結露・着雪を防ぐ透明ヒーター

 透明電極は、結露防止や着雪防止を目的とした「透明ヒーター」にも使われています。車載機器や監視カメラなど、クリアな視界が求められる箇所での防曇・融雪用途にも展開されています。

その他の用途 

このほか、車載機器や産業機械のタッチセンサー、OLED照明の透明電極、電子ペーパーやスマートウィンドウ(調光ガラス)、医療用ディスプレイやバイオセンサー、電磁波シールドなど、応用範囲は多岐にわたります。

ITO成膜の主な方法と仕組み

ITO膜は真空蒸着法によって最初に工業化されましたが、現在ではスパッタリング法が最も標準的な成膜手法となっています。それぞれの方法の仕組みとメリット・デメリットを見ていきましょう。

スパッタリング法

スパッタリング法

真空チャンバー内にITOターゲット(インジウムとスズの酸化物で構成された板)と基板を設置し、アルゴンガスを導入してプラズマを発生させます。プラズマ中のイオンがターゲットに衝突すると、インジウムやスズの原子が弾き出され、これが基板表面に堆積してITO膜が形成される仕組みです。この方法は、真空蒸着法とともに物理気相成長(PVD)法に分類されます。

膜厚の均一性と高品質な薄膜を形成しやすく、プロセス条件の調整によって透明性・導電性といった膜の特性を制御しやすい点が大きなメリットです。一方で、真空装置や高いエネルギーが必要になるため初期投資が大きくなりやすく、堆積速度がやや遅いため大面積の生産には時間がかかる場合があります。

また、スパッタリング法で成膜したITOは、成膜直後はアモルファス状態のため、基板加熱やポストアニールによって膜を結晶化させる必要があります。現行のITOでは結晶化が始まる温度がおよそ150〜160℃で、十分に低抵抗・高透過率な特性を得るには200℃以上の熱処理が一般的です。この熱処理温度が、後述するフィルム基材を選ぶ際の重要な制約になります。

菅製作所|スパッタ装置一覧

真空蒸着法

真空蒸着法

真空中で材料を加熱・気化させ、蒸発した粒子を基板の表面に付着させて薄膜を形成する方法です。電子ビーム蒸着法であれば高純度の薄膜を得やすく、比較的低温での成膜が可能なため、温度に敏感な基板にも対応しやすいというメリットがあります。一方で真空環境が必要でコストがかかる点はスパッタリングと共通しており、ITO材料の一部が蒸発しづらいため、成膜時の均一性を保つのが難しい場合があります。

菅製作所|蒸着装置

イオンプレーティング法

真空蒸着法とほぼ同じ原理をベースにしながら、蒸発した粒子をグロー放電中でイオン化させ、基板にマイナスの電荷を印加することで蒸発粒子を電気的に加速し、基板に衝突・堆積させる方法です。

真空蒸着技術とプラズマ発生技術を組み合わせた複合技術で、成膜材料が高エネルギー粒子となることで基材への密着力が高まり、緻密な成膜が可能になります。

真空蒸着の密着性の弱さを補う手法として、熱に弱いフィルムなどの基材にも安定して膜を形成しやすい点が特徴です。一方で、グロー放電を発生させる機構が必要な分、装置構成がやや複雑になりやすく、コストがかかる場合があります。

ITO成膜における技術的な課題

ITO成膜には、基材の特性や資源面での制約など、押さえておきたい技術的な課題もあります。

フィルム・樹脂基材における低温プロセスの課題

スパッタリング法で成膜したITOは通常150〜200℃程度の熱処理によって結晶化させる必要があります。しかしPETやPENといったフィルム基板の実使用温度は130〜170℃程度、ポリカーボネートは最大でも130℃程度とされており、この温度域ではITOは十分に結晶化しきれず、抵抗率が高いまま(低温プロセスでは低抵抗な膜が得られない)という課題があります。

インジウム資源の制約と代替材料の動向

 ITO膜に使われるインジウムは希少金属であるため、一時期は資源枯渇が懸念され代替材料の開発が盛んに行われましたが、リサイクル技術の進展により現在では供給や価格は安定しています。一方でITO膜は屈曲に弱いという性質があり、柔軟性が求められるフレキシブルデバイス向けの透明電極としては使いづらい面もあるため、導電性高分子やAgナノワイヤー、グラフェンといった新しい透明導電材料の開発も進められています。

成膜後の品質管理(表面の平滑性)

有機ELディスプレイなど高い性能が求められる用途では、成膜だけでなく成膜後の膜質管理も重要です。スパッタリングなどで形成したITO膜の表面には微細な突起や粗さが生じやすく、これが発光ムラや素子劣化の原因になることがあるため、成膜後に表面を研磨して平滑化する技術も実用化されています。

装置導入前に試せる「テスト成膜サービス」

自社でITO成膜を検討している場合、いきなり装置を導入するのはハードルが高いと感じる方も多いのではないでしょうか。菅製作所では、装置の新規導入を前提としたお客様を対象に、弊社保有のデモ機によるシリコンウエハーやお客様御支給のサンプルに対するテスト成膜サービスを有償で行っております。(※ITOのテスト成膜時はITOターゲットをご購入いただく必要があります。)

お客様がご来社の上、装置本体の説明を含むテスト成膜のコースと、サンプルをお預かりして弊社で成膜する方法の2通りの方法を選択できます。

また、弊社装置の導入が前提ではないお客様に対しても有償で成膜を承ります。ただし、処理量や膜質への保証について制限がございますのでご相談ください。

ご相談の際は、基材の種類とサイズ、希望する抵抗値(シート抵抗)や透過率、使用環境(耐熱性・耐候性が必要かどうか)、想定される数量などを整理しておいていただくとスムーズです。自社の用途に最適な成膜方法が分からない場合も、まずはお気軽にご相談ください。

▼テスト成膜について詳しくはこちら

まとめ

ITO成膜とは、酸化インジウムスズによる透明導電膜を基材表面に形成する技術で、ディスプレイやタッチパネル、太陽電池、透明ヒーターなど幅広い用途で使われています。主な成膜方法にはスパッタリング法・真空蒸着法・イオンプレーティング法があり、それぞれ膜質・密着性・対応基材に違いがあります。特にガラスかフィルムかといった基材の耐熱性によって適した方法が変わるため、自社の用途・仕様に合わせた選定が重要です。

方法選びに迷う場合や、実際に装置でどの程度の膜質が得られるか確認したい場合は、菅製作所の「テスト成膜サービス」をぜひご活用ください。

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参考サイト

・日本セラミックス協会「セラミックス」59巻No.4(2024)ジオマテック株式会社研究開発部 執筆 https://www.ceramic.or.jp/museum/contents/pdf/2024_04.pdf

・東ソー株式会社 技術報告 第61巻(2017)「低温プロセス用新規透明電極材料」
https://www.tosoh.co.jp/technology/assets/17-4-3.pdf

・安達新産業株式会社(e-coating.jp)「ITO(透明導電膜)について徹底解説します!」
https://www.e-coating.jp/trend/ito/

・ジオマテック株式会社「透明導電膜・ITO膜とは」
https://www.geomatec.co.jp/products-and-solutions/electricity-control/our-ito-and-transparent-conductive-films/

・尾池工業株式会社「イオンプレーティング技術」
https://www.oike-kogyo.co.jp/research/column/ion/

・ミポックス株式会社「ITO膜研磨が切り拓く有機ELディスプレイの性能向上」
https://www.mipox.co.jp/media/archives/273

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この記事を書いた人

株式会社菅製作所

北海道北斗市で、スパッタ装置やALD装置等の成膜装置や光放出電子顕微鏡などの真空装置、放電プラズマ焼結(SPS)による材料合成装置、漁船向け船舶用機器を製造・販売しています。
また、汎用マイコン・汎用メモリへの書込みサービスも行っています。

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