ALD技術が電池を進化させる!寿命改善・安全性向上に繋がる応用メリット

ALD技術が電池を進化させる!寿命改善・安全性向上に繋がる応用メリット

スマートフォンや電気自動車に使われるリチウムイオン電池(LIB)は、より長い寿命、速い充電、高い安全性が求められています。

この課題を解決するため、原子層堆積(ALD)という非常に精密な技術が注目されています。

ALDは、電極材料の表面を原子の層レベルで薄くコーティングすることで、電池の基本的な性能を向上させます。

そもそもALDとは?なぜ電池に不可欠なのか

ALD(原子層堆積)は、膜を作る方法の中で最も精密な技術です。

①ALDの基本的な仕組み

ALDは、膜の材料となるガスを二種類、交互に反応炉に入れることで膜を作ります。

  1. 膜の材料A(ガス)を入れ、電極の表面全体に吸着させます。吸着したところで反応は止まります。
  2. 余分なガスを排気します。
  3. 膜の材料B(ガス)を入れ、表面に吸着したAと反応させ、原子1層分の非常に薄い膜を形成します。

このサイクルを繰り返すことで、必要な厚さの膜をデジタル的に、非常に正確に作ることができます。

②電池の材料に最適である理由

LIBの電極材料は、粉が積み重なったもので、表面が複雑な形をしています。従来のコーティング技術では、複雑な形の裏側や小さな穴の奥まで、均一に膜を張るのは困難でした。

しかし、ALDはガスを使い、吸着が飽和するまで待つ原理を利用するため、どんなに複雑な表面でもムラなく均一に(コンフォーマル性高く)膜を作ることができます。これは、電極のすべての粒子を確実に保護するために、非常に重要な能力です。

電池分野での課題

ALDが解決を目指している、リチウムイオン電池の主な課題は以下の3点です。

①リチウムイオン電池の寿命が短い

充電と放電を繰り返すと、電極の表面で不要な化学反応が起こり、SEI層という不安定な層ができます。この層が厚くなると、リチウムイオンがスムーズに移動できなくなり、使える電気の量が徐々に減って、電池の寿命が短くなります。

②高電圧下での劣化や副反応

電池のパワーを上げるため、高い電圧で充電すると、電池の中の電解液が分解したり、電極から有害な金属(コバルトなど)が溶け出したりする問題が発生し、電池の性能が急速に悪化します。

③発火リスクを含む安全性の問題

過充電などで、負極の表面にデンドライトという針状のリチウムの結晶が成長することがあります。この針が電池の仕切り(セパレーター)を突き破ると、内部でショート(短絡)が起こり、発火や爆発の危険性につながります。

ALDの電池への応用

ALDは、電極の表面に非常に安定した保護膜(人工SEI層)を作ることで、上記の課題に対処します。

①電極表面にALD膜を形成

ALDで作る極薄膜は、「人工SEI層」として機能します。この層が、電極と電解液の直接接触を防ぎ、安定した反応だけが起こるように制御します。

有害な反応を抑制活物質表面を安定な膜で覆い、高電圧下での電解液の分解や、金属の溶出といった不要な化学反応を効果的に抑えます。
イオンの通り道ALD膜は、電子の移動は遮断しますが、リチウムイオンの移動を妨げないように、薄く、かつ緻密に作られます。

②正極材・負極材など「粉体粒子」へのコーティング

LIBの活物質は粉(粒子)なので、ALDは特殊な装置を使い、すべての粒子を均一にコーティングします。これにより、電極全体で性能が均一になり、局所的な劣化を防ぎます。

③電解液との反応抑制

ALD膜は、高温下や高電圧下でも化学的に安定しているため、電極と電解液が触れることで起こる有害な副反応を抑え込み、電池の膨張や性能低下を防ぎます。

ALDを電池に応用するメリット

①電池の長寿命化

ALDコーティングは、活物質の分解を抑え、リチウムイオンの消費(容量低下の原因)を防ぐことで、電池の寿命を延ばします。特に、高温での劣化を大幅に改善する効果があります。

②安全性の向上

ALD膜は、デンドライト(針状結晶)の生成を効果的に抑制します。特に、高容量化が期待されるリチウム金属負極の表面をALD膜で保護することで、デンドライトの成長を防ぎ、発火リスクを大きく低減します。

③高エネルギー密度の実現

ALD膜は、電極と電解液の界面で発生する抵抗を劇的に低減します。この抵抗の低減により、リチウムイオンがスムーズに移動できるようになり、急速充電の性能が向上します。安全性を確保しつつ、電池の高エネルギー密度化を可能にします。

電池分野におけるALDの応用例

①リチウムイオン電池

  • 正極材:LiCoO2​などの表面にAl2​O3​(酸化アルミニウム)などの膜をコーティングし、寿命と安定性を向上させます。
  • シリコン負極:充放電で大きく膨らむシリコン負極の周りにALD膜を張ることで、ひび割れや崩壊を防ぎ、長期間安定して使えるようにします。

②全固体電池

全固体電池は、液体を使わない安全な電池ですが、電極と固体電解質の接触部分の抵抗が高いことが課題です。ALDは、この接触部分に原子レベルで均一な層を作り、抵抗を下げて性能を向上させるために研究されています。

③次世代電池(リチウム硫黄(Li-S)電池など)

電池は高容量ですが、有害な物質(ポリ硫化物)の溶出が課題です。ALD膜は、この溶出を防ぐバリアとして働き、電池の安定性と効率を改善します。

まとめ

ALD技術は、電池の材料表面を原子レベルで正確に設計する、非常に重要な技術です。この技術による長寿命化、安全性向上、急速充電性能の向上は、今後の電気自動車やモバイル機器の進化に不可欠な役割を果たします。

【参考】

原子層堆積法によるリチウムイオン電池、燃料電池および太陽電池用ナノ材料の作製

「人工個体電解質界面の導入によるリチウムイオン電池の出力向上」(寺西貴志)

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この記事を書いた人

株式会社菅製作所

北海道北斗市で、スパッタ装置やALD装置等の成膜装置や光放出電子顕微鏡などの真空装置、放電プラズマ焼結(SPS)による材料合成装置、漁船向け船舶用機器を製造・販売しています。
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