ALDで表面の親水性・疎水性をコントロールする方法と応用例を解説

ALDで表面の親水性・疎水性をコントロールする方法と応用例を解説

原子層堆積法(ALD)は、原子レベルで薄膜を形成し、膜厚だけでなく表面の化学特性までも精密に制御できる革新的な技術です。

特に、親水性・疎水性といった「濡れ性」のコントロールは、半導体、医療、光学分野などで性能や機能を左右する重要な要素です。本記事では、ALDによる親水性・疎水性の制御メカニズム、材料別の特性、そして応用例について詳しく解説します。

高精度な薄膜成膜を実現するALD装置について

菅製作所は、大学の研究所でも導入実績のあるALD装置で、お客様の研究開発を強力に支援します。個別の研究目的に合わせたカスタマイズや、導入前のテスト成膜も可能です。ALD装置のご検討やご相談は、ぜひ当社までお問い合わせください。

親水性・疎水性とは?ALDがもたらす表面特性の精密制御

原子層堆積法(ALD)は、原子レベルで薄膜を積層する成膜技術であり、厚さだけでなく表面の化学的性質まで精密に制御できることが特徴です。その中でも、「親水性」と「疎水性」の制御は、材料の濡れ性(液体が固体表面に広がるか、あるいは弾かれるかを示す性質)や表面エネルギーを変化させ、デバイス性能や機能性を大きく左右します。

①親水性=水に「なじむ」表面

親水性とは、水分子と高い親和性をもつ表面特性を指します。表面に極性基(–OH、–COOH、–NH₂など)が多く存在する場合、水分子と水素結合やイオン結合を形成しやすく、濡れ広がりやすい性質になります。

例えば、酸化アルミニウム(Al₂O₃)や酸化ケイ素(SiO₂)の表面は、–OH基(シラノール基)で終端されており、自然に親水性を示します。

②疎水性=水を「はじく」表面

一方、疎水性とは水との親和性が低く、水をはじく性質を指します。表面が非極性基(–CH₃、–CF₃など)で覆われている場合、水分子は結合しにくく、高い接触角を示します。代表的な疎水性膜は、有機フッ素系のALD膜や、HMDS処理によるメチル基被覆表面などです。

③接触角(コンタクトアングル)について

表面の濡れ性は、「接触角(Contact Angle)」で定量的に評価されます。水滴を固体表面に落としたときの角度が25°以下なら親水性、90°以上なら疎水性、150°以上なら超疎水性と分類されます。

ALDでは、原子層レベルで表面官能基を調整できるため、この接触角を狙い通りに制御できるのが大きな特徴です。

ALDによる表面特性制御のメカニズム

ALD(Atomic Layer Deposition)は、前駆体ガスを交互に供給し、化学反応によって1原子層ずつ堆積する技術です。各反応ステップが自己終端的(self-limiting)に進むため、膜厚はもちろん、表面終端基の種類や密度まで精密に制御可能です。

菅製作所のALD技術では、金属酸化物・窒化物・有機複合膜など、幅広い材料を対象に親水性・疎水性を原子レベルで制御できます。

また、プラズマ強化ALD(PEALD)を用いることで、表面の官能基を選択的に形成し、膜の濡れ性を制御することも可能です。

ALDの成膜プロセスで親水性・疎水性を変化させる要因は、以下のように整理できます。

  • 成膜材料の種類:酸化物系は親水性、有機フッ素系は疎水性を示す傾向。
  • 表面終端基:–OHで終端すれば親水性、–CH₃や–CF₃で終端すれば疎水性。
  • プラズマ・熱処理条件:酸化雰囲気下では親水化、還元雰囲気下では疎水化が進行。

つまり、ALDでは成膜後の表面反応やガス選択を通じて、原子層単位で濡れ性をデザインできるのです。

【材料別】親水性・疎水性の具体例

①Al₂O₃(酸化アルミニウム):親水性

Al₂O₃はALDで最も広く用いられる酸化物材料で、形成後は–OH基で表面が覆われるため高い親水性を示します。

この特性は、金属配線保護膜やバリア層など、濡れ性が重要なプロセスに有用です。さらに、プラズマ処理や有機修飾を行うことで、親水性から疎水性への転換も容易です。

引用

CA measurements

To gain insights into the hydrophilicity of the ALD-coated Si tip, we measured CAs of a water droplet deposited on a Si wafer with and without ALD Al2O3 coating, as shown in Fig. 2a–d. Without coating (Fig. 2a), the CA was relatively high (70.4°), suggesting the tip hydrophobicity due to organic contamination. Even after 10 or 20 cycles, the CA remains almost the same: 71.6° and 67.6°, respectively. As discussed earlier, the surface of the 20-cycle ALD-coated tip can be carbon, SiO2 or Al2O3, depending on the initial thickness of the carbon contamination layer. The observed high CA for this experiment suggests that the surface was still terminated with carbon even after 20 cycles. After 50 cycles, the CA dramatically decreased to show 15.8°, suggesting the coverage of the tip apex by hydrophilic Al2O3 film. This result is consistent with our TEM observations shown in Fig. 1.

②TiO₂(酸化チタン):超親水性

TiO₂は光触媒作用により、紫外光照射下で表面の有機汚染を分解し、超親水性を示すことが知られています。

ALDで形成したTiO₂膜は高密度で欠陥が少なく、医療デバイスや光学ガラス上に利用すると防曇・防汚機能を発揮します。

③有機系ALD(フッ素系など):疎水性

有機フッ素系のALD膜(例:AlF₃、ZnF₂、有機シランなど)は、表面が–CF₃基で覆われるため極めて疎水性が高く、接触角100°を超えることもあります。

この性質は、防水コーティング・低摩擦膜・マイクロ流体チップなど、水を弾く特性が求められる分野で利用されます。

親水性・疎水性をコントロールするALDの応用例

①医療デバイス:血液や細胞とのなじみを調整

医療機器やバイオデバイスでは、血液・細胞との接触時の濡れ性が機能性を左右します。

ALDによって表面を親水化することで細胞接着性を高めることができ、逆に疎水化することでタンパク質の非特異吸着を抑制できます。これにより、医療インプラントやバイオチップの表面設計が最適化可能です。

②マイクロ流体デバイス:親水と疎水パターンで流路を制御

マイクロ流体デバイスでは、液体の流れを制御するために親水/疎水パターンを設けます。

ALDはナノメートルスケールで選択的な表面改質ができるため、流路内部の濡れ特性を精密に設計可能です。これにより、液滴の輸送・分離・反応制御を高精度で実現します。

③光学部材・防汚コーティングでの応用

光学レンズやディスプレイガラスでは、水滴や油膜の付着を防ぐ防汚・防曇コーティングが求められます。

TiO₂の超親水膜や、有機フッ素系ALD膜による超疎水コーティングは、透明性を保ちながら高い機能性を付与します。ALDの均一な膜質により、ナノレベルで制御された光学性能を実現できる点も大きな利点です。

まとめ

ALDは、単なる薄膜形成技術にとどまらず、親水性・疎水性といった表面化学特性を原子層レベルでコントロールできる技術です。

材料選定・プロセス条件・表面終端制御によって、水とのなじみを自在に設計できるため、医療・光学・エレクトロニクスなど、幅広い分野で応用が進んでいます。

▼菅製作所では、有償でテスト成膜を承っております。どのような膜が成膜できるかお試しいただけますので、ぜひご活用ください。

【参考】

Tip treatment for subnanoscale atomic force microscopy in liquid by atomic layer deposition Al2O3 coating」金沢大学

「親水性と疎水性の定量表現」日本大学理工学部

「酸化物表面の親水性・疎水性と表面濡れ性の評価」表面科学 Vol. 30 

「疎水効果と疎水性相互作用」日本物理学会

「親水性」半導体用語集(SEMI-NET

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株式会社菅製作所

北海道北斗市で、スパッタ装置やALD装置等の成膜装置や光放出電子顕微鏡などの真空装置、放電プラズマ焼結(SPS)による材料合成装置、漁船向け船舶用機器を製造・販売しています。
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