冷陰極電離真空計の原理・構造・特徴をわかりやすく解説

電子を加速させて気体分子を電離し、その電流から圧力を求める冷陰極電離真空計。

機械的な構造が少なく、広い圧力範囲をカバーできる点で多くの研究現場や真空装置に利用されています。

本記事では、冷陰極電離真空計の原理・構造・測定の仕組みをわかりやすく解説。

さらに、扱う際の注意点や他方式との違いについても詳しく紹介します。

実務で冷陰極電離真空計をより正確かつ安全に扱うために、ぜひ最後までご覧ください。

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冷陰極電離真空計(コールドカソードゲージ)の原理

冷陰極電離真空計(コールドカソードゲージ)は、電場と磁場を組み合わせて真空中のガス分子を電離し、その電流から圧力を求める仕組みを持つ真空計です。

ここでは、その基本的な動作原理を「放電」「磁場」「電流」の3つの観点から順に解説していきます。

放電を利用してガスを電離する

冷陰極電離真空計では、真空中にわずかに残るガス分子を「放電」によって電離させます。内部には陰極と陽極が設けられており、高電圧をかけることで電子が放出されます。

放出された電子は、真空中を飛びながらガス分子に衝突し、その衝突によってガス分子がプラスに帯電したイオンへと変化します。

こうして生じた電子とイオンの数は、真空中のガスの量、すなわち圧力に比例するため、電離の度合いを測定することで真空度を知ることができます。

磁場によって電子の軌道を制御する

冷陰極電離真空計では、電子が効率よくガス分子と衝突するよう、磁場を利用して電子の動きを制御しています。

電子は磁場の影響を受けると直進せず、らせんを描くように飛行します。

その結果、電子は真空計内部を長く移動し続けるため、ガス分子と衝突する機会が増加します。

これにより電離の効率が高まり、微小な圧力変化でも正確に検出できるのが特徴です。

磁場は冷陰極型特有の重要な仕組みであり、装置の感度と安定性を支える要素となっています。

電流値から圧力を算出する

冷陰極電離真空計では、放電によって生じたイオンが陽極へと引き寄せられ、そのときに流れるイオン電流を測定します。

この電流の大きさは、真空中に存在するガス分子の数、つまり圧力に比例しています。

圧力が高いほどガス分子が多くなり、電離によって発生するイオンも増えるため、電流値は大きくなります。

逆に、真空度が高いほど電流は小さくなります。

こうした電流値と圧力の関係をあらかじめ校正しておくことで、電流の大きさから真空の圧力を正確に算出することができるのです。

冷陰極電離真空計の構造と特徴

冷陰極電離真空計は、構造のシンプルさと高い耐久性を兼ね備えた真空計です。

内部にはフィラメントがなく、放電によって電子を発生させる仕組みのため、熱による損傷を避けられる一方で、排気作用による汚染リスクもあります。

ここでは、その構造的なメリットやデメリットについて詳しく見ていきましょう。

フィラメントを使わない構造のメリット

冷陰極電離真空計は、熱電子を放出するフィラメントを持たない点が大きな特徴です。

従来の熱陰極型ではフィラメントが高温になるため、焼損や断線のリスクがありましたが、冷陰極型では放電によって電子を発生させるため、こうしたトラブルを避けることができます。

また、電源投入直後から測定を開始でき、立ち上がりが早いのも利点です。構造がシンプルなため耐久性が高く、長期運転や過酷な環境下でも安定した測定が可能です。

排気作用による電極の汚染リスク

冷陰極電離真空計は、内部で気体をイオン化し、そのイオンを陰極に打ち込むことで排気を行う仕組みを持っています。

この「排気作用」は真空維持に役立つ一方で、電極の汚染リスクを高める要因にもなるのです。


真空容器の中には、シリコンゴムや樹脂製の部品などから微量のシロキサンやフタル酸といった有機物が放出されることがあります。

これらが真空計内に入り込むと、電子にぶつかって分解・イオン化され、陽極や陰極に付着します。

それにより、表面に電気を通しにくい膜ができ、感度の低下や測定値の不安定化を招くことがあるため注意が必要です。

冷陰極電離真空計を使う際の注意点

測定誤差を防ぐための校正とクリーンアップ

冷陰極電離真空計は高精度な測定が可能な一方で、電極の汚れや表面状態の変化によって感度が低下し、測定誤差が生じることがあります。

そのため、定期的な校正とクリーンアップが欠かせません。

校正では、既知の圧力を基準として出力電流との関係を確認し、補正を行います。

また、クリーンアップでは電極表面に付着した汚れや吸着ガスを除去するため、高電圧を印加して放電洗浄を実施します。

これにより、測定の正確性を維持することができます。

起動時のバックグラウンド放電

冷陰極電離真空計を起動すると、内部で初期放電(バックグラウンド放電)が発生する場合があります。

これは、電極表面に付着した不純物や吸着ガスが一時的に電離することによって起こる現象です。

放電が安定するまでの間は、実際の圧力よりも高い値を示すことがあるため、起動後しばらく時間をおいてから測定結果を確認すると良いでしょう。

十分に安定した状態で測定を行うことで、より正確な真空度を得られます。

使用環境を整える

冷陰極電離真空計を正確に動作させるためには、使用環境の管理が欠かせません。

特に、高湿度や粉塵の多い場所では電極が汚れやすく、放電が不安定になるおそれがあります。

また、強い磁場や振動が加わる環境では、電子の軌道や電流値が乱れ、正確な測定が難しくなります。

設置時は温度変化の少ない清潔な場所を選び、必要に応じて防振対策を行うことが重要です。

まとめ

冷陰極電離真空計は、放電と磁場を利用して精密に真空度を測定する、高感度な計器です。

フィラメントを使わない構造により、焼損や汚染に強いのが特徴です。

起動時の放電や環境条件に注意し、定期的な校正とクリーンアップを行う必要があります。

こうした構造や原理を正しく理解することで、その特性を最大限に活かし、より精度の高い真空管理を実現できるでしょう。

【参考文献】

JP4568321B2 – 冷陰極電離真空計 – Google Patents

ペニング真空計

種々の真空計とそれぞれの計測原理

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この記事を書いた人

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北海道北斗市で、スパッタ装置やALD装置等の成膜装置や光放出電子顕微鏡などの真空装置、放電プラズマ焼結(SPS)による材料合成装置、漁船向け船舶用機器を製造・販売しています。
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