
真空蒸着(Vacuum Deposition)は、現代のエレクトロニクス、光学部品、装飾品の製造において、非常に重要な薄膜形成技術の一つです。
材料を加熱・蒸発させ、その分子や原子を基板(ターゲットとなる部品)に付着させて薄膜を作ります。
この技術を支える真空蒸着装置は、どのような原理で動作し、また、その「加熱方式」にはどのような種類があるのでしょうか?本記事では、真空蒸着の基本的なプロセスから、代表的な加熱方式、そして競合技術であるスパッタリングとの違いまで、わかりやすく解説します。
北海道北斗市に拠点を置く株式会社菅製作所は、独自の技術力を駆使し、幅広い分野で皆様の挑戦をサポートしています。スパッタ装置やALD装置等の成膜装置や光放出電子顕微鏡などの真空装置、放電プラズマ焼結(SPS)による材料合成装置、漁船向け船舶用機器を製造・販売しています。また、汎用マイコン・汎用メモリへの書込みサービスも行っています。どのような研究開発でも一度ご相談ください。菅製作所が独自に培った技術力で皆様の創造をアシストします。
目次
そもそも真空蒸着装置とは?真空蒸着のプロセスを3ステップで解説
真空蒸着装置は、チャンバー(容器)内を高真空状態にし、そこで成膜材料(蒸着源)を加熱して気化させ、基板表面に薄い膜(薄膜)を形成する装置です。
真空蒸着のプロセスは、主に以下の3つのステップで進行します。
ステップ1:真空排気(高真空状態の生成)
まず、成膜を行う真空チャンバー内の空気を、真空ポンプを用いて排出します。高真空状態にすることで、以下の効果が得られます。
- 不純物の除去:空気中の酸素や水分といった不純物分子を極力取り除き、純度の高い薄膜を形成できるようにします。
- 分子の直進:蒸発させた分子や原子が、空気分子と衝突せずに、まっすぐ基板まで到達できるようにします。
ステップ2:加熱・蒸発(成膜材料の気化)
高真空状態にした後、成膜材料(蒸着源)を抵抗加熱、電子ビーム、誘導加熱といった方法で加熱します。材料が融点を超えて蒸気圧が高まると、材料の原子や分子が気化し、ガス状になってチャンバー内に放出されます。
ステップ3:成膜(基板への付着・薄膜形成)
気化した材料の分子や原子は、チャンバー内の真空空間を直進し、上部にセットされた基板(ウェハー、レンズなど)の表面に到達します。そこで冷却され、固体の薄い膜として付着・堆積することで、薄膜が形成されます。
真空蒸着装置の加熱方式4種と特徴
真空蒸着の性能や適用できる材料は、蒸着源をどのように加熱・気化させるかという加熱方式によって大きく左右されます。代表的な4つの加熱方式とその特徴を解説します。
①抵抗加熱方式|構造がシンプルで汎用的
- 原理:高融点の金属(タングステン、モリブデンなど)で作られたボート(容器)やフィラメント(線)に大電流を流し、その抵抗熱によって材料を加熱・蒸発させる最もシンプルな方法です。
- 特徴:構造が簡単でコストが低く、操作も容易です。低融点(融点が低い)の金属や酸化物など、比較的幅広い材料に適用できますが、高融点材料の蒸発は困難です。
②電子ビーム(EB)方式|高融点材料の成膜に
- 原理:電子銃から発射した高エネルギーの電子ビーム(EB)を蒸着材料に集中して照射し、その衝突熱で部分的に加熱・蒸発させる方法です。
- 特徴:非常に高いエネルギー密度で加熱できるため、高融点(融点が高い)の金属(例:タングステン、モリブデン)やセラミックスなど、抵抗加熱では難しい材料の成膜を可能にします。また、ボートの汚染がないため、比較的クリーンな蒸着が可能です。
③誘導加熱方式|高純度な薄膜形成に最適
- 原理:高周波電流を流したコイルの中に蒸着材料を入れ、電磁誘導によって発生する渦電流のジュール熱で材料を加熱・蒸発させる方法です。
- 特徴:加熱部(コイル)と材料が直接接触しないため、蒸発源の汚染が非常に少ないのが特長です。これにより、高純度な薄膜形成に適しており、抵抗加熱や電子ビーム加熱では難しい特定の材料に応用されます。
④レーザーアブレーション方式|多元系材料に対応
- 原理:強力なパルスレーザーを材料に照射し、材料の表面を一瞬で気化・プラズマ化させて薄膜を形成する方法です(PLD: Pulsed Laser Deposition)。
- 特徴:瞬間的な加熱により、元の材料の組成を保ったまま蒸発させやすいため、複数の元素からなる多元系材料(例:超伝導材料、複雑な酸化物)の組成制御に優れています。ただし、装置が複雑で、成膜レート(速度)は比較的遅くなります。
真空蒸着の代表的な成膜材料
真空蒸着は、多種多様な材料に応用されています。
- 金属:アルミニウム(Al)、銀(Ag)、金(Au)、クロム(Cr)など。リフレクター(反射鏡)、電極、配線材などに使用されます。
- 誘電体・酸化物:二酸化ケイ素(SiO2)、酸化チタン(TiO2)など。反射防止膜、保護膜、光学フィルターなどに使用されます。
- 有機材料:有機EL(OLED)の発光層や機能層に使用される有機化合物。
真空蒸着装置とスパッタリング装置の違い
真空薄膜形成技術として、真空蒸着と並び広く使われるのがスパッタリングです。両者はともに真空下で薄膜を作る技術ですが、原理と特徴が大きく異なります。
比較項目 | 真空蒸着 (PVD) | スパッタリング (PVD) |
成膜原理 | 熱により材料を蒸発させる(物理的) | プラズマにより材料を弾き飛ばす(物理的) |
気化方法 | 抵抗熱、電子ビーム、誘導熱など | アルゴンイオンの衝突 |
成膜粒子のエネルギー | 低い(熱エネルギー程度) | 高い(イオン加速エネルギー) |
膜の密着性 | やや劣る(基板を加熱すれば改善) | 優れる(高エネルギーで叩きつけるため) |
段差被覆性 | 優れる(ガスが回り込みやすいため) | やや劣る(粒子の指向性が高いため) |
組成制御 | 単純な物質(単一元素)に有利 | 多元系物質(合金など)の組成維持に有利 |
成膜材料 | 低融点材料、一部の高融点材料 | 高融点材料、金属、合金、セラミックスなど幅広く対応 |
スパッタリングの特長
スパッタリングは、プラズマ中のアルゴンイオンをターゲット(成膜材料)に衝突させて原子を弾き飛ばす手法です。
- 密着性が高い:弾き飛ばされた粒子が高い運動エネルギーを持っているため、基板に強く叩きつけられ、緻密で密着性の高い膜ができます。
- 高融点材料に強い:加熱ではなく、原子の衝突で材料を放出するため、高融点の金属や合金の成膜に特に適しています。
真空蒸着は、成膜速度が速く、段差がある部分の被覆性に優れるのに対し、スパッタリングは膜の密着性や高融点材料への対応に優れています。用途や要求される膜質に応じて、最適な手法が選択されます。
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菅製作所の「研究開発用小型蒸着装置 SEV2000Plus」

菅製作所では、研究開発における多様なニーズに応えるため、高性能な真空蒸着装置を提供しています。
「研究開発用小型蒸着装置 SEV2000Plus」は、小型ながら抵抗加熱方式やEB加熱方式など、多様な加熱ソースに対応可能です。使いやすさと高い操作性を両立しており、研究機関や大学の研究室での薄膜試作・条件検討に最適なプラットフォームを提供します。
まとめ
真空蒸着技術は、材料を「加熱・蒸発」させるシンプルな原理に基づき、電子ビーム方式や誘導加熱方式といった多様な加熱方法によって、幅広い材料の成膜を可能にしています。
競合技術のスパッタリングと比較すると、蒸着は特に段差被覆性や成膜速度に優位性があります。
菅製作所は、長年の実績と信頼に基づき、研究開発の現場で新しい知見を生み出す高品質な真空装置を提供しています。
高度な成膜・真空技術に関するご質問やご相談がございましたら、お気軽にお問い合わせください。