
「真空装置の仕組みについて知りたい」「なんだか複雑でよくわからない・・・」
そうお考えの方も多いのではないでしょうか。
そこで今回は、長年真空装置開発に携わる「菅製作所」が、真空装置がどのような仕組みで成り立っているのかについて、詳しく解説します。
合わせて、装置の心臓部である「真空ポンプ」の役割についてもご説明します。
ぜひ記事を最後までご覧いただき、真空装置の仕組みを深く理解していただければ幸いです。
北海道北斗市に拠点を置く株式会社菅製作所は、独自の技術力を駆使し、幅広い分野で皆様の挑戦をサポートしています。スパッタ装置やALD装置等の成膜装置や光放出電子顕微鏡などの真空装置、放電プラズマ焼結(SPS)による材料合成装置、漁船向け船舶用機器を製造・販売しています。また、汎用マイコン・汎用メモリへの書込みサービスも行っています。どのような研究開発でも一度ご相談ください。菅製作所が独自に培った技術力で皆様の創造をアシストします。
真空装置の仕組みは「作る・保つ・測る・制御」の4要素で成り立つ
真空装置の仕組みは非常にシンプルで、「作る・保つ・測る・制御する」という4つの要素で成り立っています。
これらは、それぞれが重要な役割を担っており、どれか一つでも欠けてしまうと、安定した真空環境は実現できません。
まずは、これらの要素がどのように関わり合っているのかを理解しましょう。
1.真空を「作る」心臓部:真空ポンプ
真空環境を「作る」役割を担うのが、装置の心臓部ともいえる真空ポンプです。
真空ポンプは、容器(真空チャンバー)の中から空気やガスなどの気体分子を排出し、大気圧よりも低い圧力状態を作り出します。
身近なもので例えるなら、掃除機がゴミを吸い込むように、気体分子を吸い出して外へ送り出すイメージです。
目的とする真空の度合い(真空度)によって、油回転真空ポンプやターボ分子ポンプなど、さまざまな種類のポンプが使い分けられます。
このように、真空ポンプは真空状態を作り出すための最も重要な部品なのです。
▼動画で知る「真空ポンプ」
2. 真空を「保つ」容器:真空チャンバー
真空ポンプによって作られた真空状態を「保つ」ための空間が、真空チャンバーです。
真空状態は非常にデリケートで、外部から少しでも空気が入り込むと簡単に壊れてしまいます。
そのため、真空チャンバーは外気が侵入しないよう、高度に密閉された頑丈な容器でなければなりません。
また、内部が真空になると、外の大気から大きな力がかかるため、その圧力に耐えられる強固な構造も求められます。
この密閉された空間の中で、成膜や実験など、さまざまなプロセスが行われるのです。
3.真空を「測る」監視役:真空計
真空の状態を正確に「測る」のが、監視役である真空計の役割です。
真空は目に見えないため、現在どのくらいの圧力になっているのか、つまり「真空度はどのくらいか」を把握するために真空計が不可欠です。
目的とする実験や製造プロセスが、適切な真空度で行われているかを確認し、品質を管理する上で重要な指標となります。
車のスピードメーターが速度を示すように、真空計は真空の度合いを数値で示してくれます。
測定したい圧力の範囲に応じて、ピラニ真空計や電離真空計など、原理の異なる様々な真空計が使い分けられます。
4.気体の流れを「制御する」:真空バルブ
気体の流れを「制御する」役割を担っているのが真空バルブです。
真空ポンプで排気する配管の経路を開いたり閉じたり、あるいはチャンバー内にガスを導入したりと、気体の流れを意図的にコントロールします。
水道の蛇口をひねって水量を調節するのと同じように、真空バルブは気体の通り道を開閉することで、真空引きの開始や停止、真空度の微調整などを行います。
手動で操作するものから自動で制御されるものまで種類はさまざまですが、真空システム全体を正確に操作するためには欠かせない部品です。
どうやって空気を抜く?真空ポンプの仕組みと代表的な種類
真空装置の心臓部である真空ポンプは、どのように空気を抜いているのでしょうか。
真空ポンプには多くの種類があり、それぞれに得意な圧力領域(真空度)があります。
どのポンプを選ぶかは、到達させたい真空度や用途によって決まります。
ここでは代表的なポンプを種類別に見ていきましょう。
【低真空域】ロータリー真空ポンプ(油回転真空ポンプ)|多くの装置で使われる万能型
低真空域(粗引き)で最も広く使われているのが、ロータリー真空ポンプです。
油回転真空ポンプとも呼ばれ、大気圧の状態から直接排気を始められる手軽さと、比較的安価で丈夫な点から、多くの真空装置に使われています。
仕組みは、ポンプ内部で回転する羽根が空間の容積を変化させ、吸い込んだ気体を圧縮して大気へ放出するというものです。
このとき、内部で使われている油が潤滑と同時に気密性を高め、効率的な排気を助けています。
まさに真空排気の基本となる万能型のポンプです。
【低真空域】ドライ真空ポンプ|油を使わないクリーンさが特徴
ドライ真空ポンプは、ロータリー真空ポンプとは異なり、気体を圧縮・排気する部分に油を一切使用しないのが最大の特徴です。
油を使うポンプでは、油の蒸気が真空チャンバー側へわずかに逆流し、内部の試料などを汚染してしまう可能性があります。
ドライ真空ポンプは、このオイルコンタミネーション(油汚染)のリスクがないため、半導体の製造プロセスなど、極めてクリーンな環境が求められる場面で重宝されます。
スクロール型など、精密に加工された部品が非接触で運動することで、クリーンな真空排気を実現しています。
【高真空域】ターボ分子ポンプ|高速回転する羽根で気体分子を弾き飛ばす
高真空の領域で主役となるのが、ターボ分子ポンプです。このポンプは、内部に多層のタービンブレード(羽根)を持っており、これが毎分数万回という超高速で回転します。
そこへ入ってきた気体分子は、高速回転する羽根に弾き飛ばされ、下流にある補助ポンプ(ロータリーポンプなど)の方へ強制的に叩き落とされていきます。
ジェットエンジンのようなダイナミックな仕組みで、分子レベルの世界を制御する高性能なポンプです。ただし、大気圧からは作動できないため、必ず粗引きポンプと組み合わせて使用されます。
【超高真空域】クライオポンプ・イオンポンプ|気体分子を捕まえて真空を作る
さらに高い超高真空の世界では、気体を「排出する」のではなく「捕まえる」という発想のポンプが活躍します。
代表的なのがクライオポンプとイオンポンプです。
クライオポンプは、内部に設置したパネルを液体ヘリウムなどで極低温(約-260℃以下)に冷却し、触れた気体分子を霜のように凍らせてパネル表面に吸着させます。
一方、イオンポンプは、電界と磁界の力で気体分子を電気的に活性化(イオン化)させ、チタンなどの壁に叩きつけて捕獲します。どちらも可動部分が少なく、非常にクリーンな超高真空環境を作ることができます。
低真空から高真空へ!ポンプをリレーして真空度を高める
高い真空度を効率的に得るためには、1種類のポンプだけでなく、複数のポンプをリレーのように繋いで使うのが一般的です。
なぜなら、ポンプにはそれぞれ最も効率よく作動する圧力領域があるからです。
まず、大気圧から排気できる「粗引きポンプ」を使って、ある程度の真空状態(低真空)を作ります。
次に、その状態でなければ作動できない「主ポンプ」に切り替えて、より高い真空度(高真空・超高真空)を目指します。
このように役割の違うポンプを組み合わせることで、スムーズかつ効率的に、目的とする真空環境を作り出すことができるのです。
まとめ
今回は、真空装置の基本的な仕組みから、その心臓部である真空ポンプの代表的な種類と役割について解説しました。
この記事でご紹介した基本原理をご理解いただけましたでしょうか。
菅製作所は、長年の実績と信頼に基づき、研究開発の現場で新しい知見を生み出す高品質な真空装置を提供しています。
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