近年、スマートフォンやパソコンの普及により、半導体の需要が急増しました。その半導体の多くはスパッタ成膜という技術が使用されており、縁の下の力持ちとして活躍しています。
しかし、スパッタ成膜は専門性が高く理解が難しいこともあるでしょう。そこで今回は、スパッタ装置を製造する菅製作所がスパッタ成膜についてわかりやすく解説します。
スパッタ成膜の基礎から具体的にどのような分野で使用されているかまでイメージしやすいように解説しておりますのでぜひご覧ください。
目次
スパッタ成膜(スパッタリング)とは何か?
スパッタ成膜(スパッタリング)は、薄膜形成に用いられるPVD(物理的気相成長法)の一種です。
真空状態の中で特定のプロセスを経ることで基板表面に薄膜を作る技術で、半導体分野を始めとした多くの分野で活躍する成膜方法になります。
ナノスケールで膜を作るために必要不可欠な技術であり、薄膜の素材により導電性を持たせる、強度を上げるなど様々な目的で使用できます。
スパッタと蒸着の違い
蒸着成膜は蒸着材料を加熱し、気化させることで離れた位置に置かれた対象物に 蒸着材料を付着させ薄膜を形成します。
一方スパッタリング成膜とはターゲット材料にプラズマ化したアルゴンイオンを高エネルギーで衝突させ、結果、弾き飛ばされたターゲット材料の微粒子が離れた位置に置かれた対象物に付着し薄膜を形成します。
蒸着に比べ膜厚を緻密に制御できること、膜の密着力が強い利点があります。また融点が高く気化させにくい金属やそれぞれの金属の融点が異なる合金の成膜も組成率を変えることなく可能になります。
スパッタ成膜のメリットとデメリット
ここでは、スパッタ成膜のメリットとデメリットを解説します。
スパッタ成膜のメリット
- 付着力が強い
- 原料の組成比が変化しにくい
- 高融点の原料でもコーティングできる
- 平面であれば大きな面積でも均一に膜が作成できる
- 時間により膜厚のコントロールができる
スパッタ成膜はなんと言ってもやはり均一な膜が形成できることと、高い密着性により安定した製品製造ができる点が魅力です。
スパッタ成膜のデメリット
- 凹凸のある対象物には向かない
- 成膜に時間が必要
- プラズマによる製品の影響が起こる場合がある
- 電源が高価かつメンテナンスが必要
- 材料によってはコーティングできない
スパッタ成膜は立体物へのコーティングには向きません。また、スパッタ装置は精密機械であるためメンテナンスが必須で、費用も高額になりやすい点がネックです。
スパッタリングの成膜プロセス
基本的なスパッタリングの成膜プロセスは、以下のステップで行います。
- 不活性ガス原子で満たした真空チャンバー内に基盤を配置する
- ターゲット(成膜材料)にマイナスの電圧を印加してグロー放電を発生させる
- 不活性ガスがターゲットに高速で衝突し、弾き飛ばされたターゲット粒子が基板に付着する
簡単に言えば、壁にボールをぶつけて、その衝撃で剥がれた壁が基板表面にコーティングされるイメージです。
ガスの種類と圧力の役割
主に使用されるガスは、不活性ガスと呼ばれるものです。不活性ガスは反応性が低く、他の物質と化学的な反応を起こしにくいことから酸化を防ぐ・真空状態を維持するなどの目的で使用されます。
代表的な不活性ガスは「アルゴン」や「キセノン」が用いられることが多いです。アルゴンについては以下の記事で詳しく解説しています。
基板の材質と表面処理の重要性
基板の材質と表面処理も重要になります。
材質は基板の物理的な強度、硬さ、伝導性などに影響を与えるため、適切な基板を選ばなければ不安定な処理や故障の原因になります。一般的にはシリコン基板が用いられることが多いです。
表面処理については、薄膜の密着性や均一性を保つため重要な処理になります。特に半導体分野では繊細な制御が求められるため、表面処理とスパッタ成膜の組み合わせて薄膜を作る必要があります。
成膜の品質とコントロール
成膜の品質は、回路の動作に直結します。
薄膜を作成することで、電流をコントロールできるようになりますが、これには薄膜の厚さと均一性が重要になります。
電気を通すように薄膜を作成した場合、膜が厚過ぎれば電気が通りにくく、膜が薄過ぎれば電気が通り過ぎてしまいます。
膜が不均一に張られていると、一部は電気を通すけれど所々電気が通らない部分があるなど、思うように製品が動作しません。
成膜を均一にしながら厚さを適切にしなければ、狙った効果が得られないということです。
そのため、品質を向上させるためには、スパッタ装置の出力パワーや処理時間が重要となり、ナノスケールの薄膜に影響する技術であるため高価になりやすい特徴があります。
スパッタ成膜の課題と対策
スパッタ成膜には、成膜中に発生する問題などに課題があります。
成膜中に発生する問題への対処法
スパッタ成膜では、成膜中に特定の問題が起こり得ます。例えば、基盤の温度が上昇することで制御が難しくなること、ターゲットの劣化により膜の成分や品質に影響が出るなど。
こういった問題へ対処するためには大きく二つの視点が必要です。一つは、そもそもスパッタ装置のスペックが足りているか、もう一つは保守管理を行なっているかです。
菅製作所ではスパッタ装置に複数のモデルを用意しており、800℃まで基盤が耐えられるモデルや2元カソード、3元カソードなど用途に応じてお選びいただけます。
保守管理については、次の項目で説明しましょう。
長期安定性の確保と保守管理のポイント
スパッタ装置を導入した際は、まず当初のプロセス性能の記録を取り、ユーティリティ試験成績表、保守図面を把握しておきましょう。
耐用年数以内でも、偶発的に故障する場合があります。スパッタ装置の多くはディスプレイにエラー表記が出ますので、購入先に問い合わせて修理を依頼することになります。
菅製作所ではアフターケアにも力を入れており、現地に赴き修理を行なったり、簡単な故障かつ急ぎであればWeb上でモニターしながら手順をお伝えして修理していただくなど柔軟に対応させていただいております。
スパッタ成膜と新技術の関連性
スパッタ成膜がどのようなものに使われているのか、具体的なイメージを見ていきましょう。
半導体の製造プロセス
スパッタ成膜は半導体製造プロセスで広く使用されます。
半導体は金属膜や絶縁体膜を形成する必要があり、半導体そのものが小型化していることからナノスケールでの薄膜が求められます。
スパッタ成膜であれば、ナノスケールで必要な基板に均一の膜を作成できるため、半導体分野では必要不可欠の技術です。
光学部品のコーティング
スパッタ成膜はレンズやミラーなどの光学部品にコーティングする際も役立ちます。
このコーティングによって、光の反射率や透過率の調整ができたり、耐摩耗性が向上したりと様々な恩恵を受けられるのです。
ディスプレイの製造プロセス
高品質なディスプレイの製造プロセスにも、スパッタ成膜は利用されます。
ディスプレイは液晶を透明な電極膜に挟み込んで表示できますが、その透明な電極膜を作成するためにスパッタ成膜が必要となるわけです。
上記のように、目に見えないサイズでありながら私たちの生活で利用されている技術なのです。
装置導入前には菅製作所のテスト成膜サービスをおすすめしています
菅製作所では、導入前にテスト成膜をし、スパッタ成膜の状態を確認していただくサービスを実施しています。
導入するとなると非常に高額なスパッタ装置が必要になりますので、導入に失敗しないためにもぜひ一度テスト成膜をお試しの上、品質がご期待通りであれば導入をご検討いただければと存じます。
テスト成膜ご希望の方は、以下のページよりご連絡ください。
まとめ
スパッタ成膜は薄膜を作成する技術の一種で、主に半導体分野で多く使用されます。
仕組みとしては不活性ガスを充満させた真空チャンバー内で、ターゲットに不活性ガスをぶつけ、弾き飛ばされた粒子が基板にコーティングされるという仕組みです。
現代テクノロジーを支える技術の一つですが、装置そのものが高額であり、選び方や保守管理の方法を誤ると損失が大きいという問題もあります。
導入を検討される場合は、製造メーカーとご相談の上、研究や製品製造に十分な効果が得られるスパッタ装置を選びましょう。
菅製作所では、既存の製品についてはもちろん、研究目的に合わせたカスタムも個別に対応させていただきます。テスト成膜サービスも行なっておりますので、スパッタ装置をご検討の際はお気軽にお問い合わせください。
参考サイト
https://coating.nidek.co.jp/article/information/ar/a38
https://plastics-japan.com/archives/2015
https://www.t-tosoh-chem.jp/panel/
https://www.geomatec.co.jp/column/sputtering.html
https://coating.nidek.co.jp/article/information/ar/a38
https://showcase.ulvac.co.jp/ja/how-to/column-about-vacuum/post-39.html
https://engineer-education.com/about_sputtering/
http://akita-nct.coop-edu.jp/assets/uploads/2014/12/a2d7b07e07af58e14c07ecaa9e7c6c59.pdf
https://www.tegascience.co.jp/products/kvt/technical-info/sputtering.html